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⑤身寄りない遺体弔う 住職によるNPO(上)

2022年12月4日

※文化時報2022年7月5日号の掲載記事です。

 NPO法人三松会(群馬県館林市)は、身寄りのない人や生活保護受給者、生活困窮者らを支援する社会福祉活動を行っている。曹洞宗源清寺(同)の住職、塚田一晃理事長が設立し、葬儀・埋葬からスタート。その後、孤独死予防、成年後見、身元引受、フードバンク、救護施設などさまざまな支援を展開した。葬儀は年間300件(累計7千件)、共同墓地への埋葬は年間200件(累計5千件)を超えるまでになっている。

お寺のポテンシャル

読経しない葬儀はない

 塚田理事長は、曹洞宗大本山總持寺で3年間の修行を積んだ。千葉県のお寺で役僧として6年ほど勤務した頃、妻の実家である源清寺の求めで、副住職として入寺した。

 僧侶として、困っている人たちの助けになろうとの思いから「自分が今できることは何か」と考え、1番目に出てきた答えは葬儀社をつくることだった。1995(平成7)年のことだ。

 当時、お経を上げない直葬が流行しだしていた。経済的に困っている人のために、葬儀社は僧侶に読経を頼まない。ならば、「僧侶の自分が葬儀社をつくってしまえば、葬儀ができない人たちも読経で救える」と考えたのだという。

本堂裏の納骨堂に安置されている引き取り手のない遺骨(画像を一部加工しています)
本堂裏の納骨堂に安置されている引き取り手のない遺骨(画像を一部加工しています)

 同年6月、有限会社三松会を設立。妻と2人きりでスタートした。

 滑り出しは順調ではなかった。特に行政の反応が悪く、有限会社というだけで「うさんくさい」と扱われた。他の葬儀社や僧侶から、バッシングや批判があり、初年度の実施件数は12件しかなかった。

 しかし、「これこそが本来の僧侶の仕事」と信じていた塚田理事長は、諦めることなく粘り強く行動した。仕事がなくても24時間待機し、依頼があればお金がない人にも、丁寧にしっかりと葬儀を挙げた。すると、福祉関係者の間で「あそこはすごい」と評判になった。

 98年の特定非営利活動促進法の施行も追い風となった。2001年に三松会をNPO法人化すると、行政も「非営利ならば」と態度を変えた。他の葬儀社からも「うちでは手に負えないから、やってくれないか」と依頼されることが増えてきた。

 「困ったときは、三松会にお願いすればいい」と口コミで広がり、群馬県内はもとより、栃木県や埼玉県などからも相談や依頼が来るようになった。

 増える葬儀依頼に対応して、葬祭式場(最大50人収容)を整備し、霊柩車(れいきゅうしゃ)も2台所有。スタッフは14人となり、葬儀社と同じ活動をするようになった。

増える葬儀依頼に対応して整備された葬祭式場
増える葬儀依頼に対応して整備された葬祭式場

 葬儀件数は、スタートしてから10年後には、年間300件を超えた。スタッフのうち5人は僧侶で、読経しなかった葬儀は1件もないという。

葬祭扶助費で運営

 葬儀の内訳は、行政から依頼される生活保護受給者が7割。そのほかは病院や高齢者施設、警察などからの依頼だ。

 葬儀料金は、その人が支払える額を考慮して決めるので、料金表はない。どれくらいか聞かれた場合は、「総額15万円から25万円以内で行う」と答えている。安ければ10~15万円、高くても20万円で収まるそうだ。

 お布施は、出せる人には出してもらうが、「三松会からお願いすると『お経は上げなくてもよい』と言われることが多い」ので、依頼しない。たまにもらえても、多くて3万円だという。

 引き出物や食事は、頼まれれば提供するが、費用を安く抑えるため、勧めない。参列者は数人の身内だけなので、「高い弁当を頼むより、コンビニ弁当でよいのではないか」と言っている。

 それでも、スタッフの人件費まで賄えているのは、葬儀の7割を占める生活保護受給者の葬儀において、親族らがいない場合、行政から葬祭扶助費として19万円ほどが支払われるからだという。

共同墓地、8割無料

 葬儀を行っても、身寄りがなかったり、遺骨の引き取りを拒否されたりするケースが多い。そういう場合は、本堂裏の納骨堂に遺骨を安置。彼岸に合わせて年2回、全ての故人に戒名を授ける法要を営み、立派な御影石で造った本堂前の共同墓地「皆護(かいご)墓地」に埋葬する。

 どこか別の寺院の檀家の可能性もあるので、埋葬するまでは俗名だという。

 共同墓地と名付けているのには、理由がある。永代供養や無縁墓地には、抵抗感のある人が結構いるからだ。例えば、結婚した一人娘は、亡くなると嫁ぎ先の墓に入るので墓を持つ必要はないが、「自分が生きている間は、家族や先祖の供養は自分でしたいのに、なぜ永代供養にしなければいけないのか、どうして無縁墓地に入れてしまうのか」などと言う人がいるそうだ。

 「皆護墓地」という名称も、「無縁墓ではなく、人生最期の介護の場、いわばケアハウスとして、皆でケアし合おう」との意味を込めている。遺族には「自分の墓だと思って、墓参りや法要をしてください」と呼び掛けている。

共同墓地「皆護墓地」。最期のケアハウスという意味を込めている
共同墓地「皆護墓地」。最期のケアハウスという意味を込めている

 共同墓地代は、基本は別途だが、経済的に難しい人は無料で埋葬する。年間200件を超える埋葬のうち、実に約8割は無料だというから驚きだ。これが可能なのも、葬祭扶助費で埋葬費や人件費などを賄っているからだという。

 共同墓地まで用意していることが、葬儀依頼が多い要因にもなっているようだ。墓地に眠るのは、半数以上が引き取り手のない遺骨だが、年1回開催している「合同供養祭」には、塚田理事長の取り組みに共鳴する檀信徒や地域住民が参拝に訪れ、たくさんの花が供えられる。文字通り「皆護墓地」になっている。

塚本優が聞いた「宗教者への要望」はもれびクリニック

 「塚本優と考える お寺のポテンシャル」では、福祉業界や葬祭業界を長年にわたって取材する終活・葬送ジャーナリストの塚本優氏が、お寺の可能性に期待する業界や、お寺のの先進的な取り組みを紹介します。

 

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