2023年1月7日 | 2024年5月14日更新
※文化時報2022年11月8日号の掲載記事です。
日本スピリチュアルケア学会の第15回学術大会が10月29、30の両日、神戸市中央区の兵庫県看護協会で開かれた。「持続可能なスピリチュアルケア=用語解説=を目指して」をテーマに、対面とオンラインで約400人が参加。新型コロナウイルス感染拡大で疲弊した医療従事者らを念頭に置いた基調講演をはじめ、シンポジウムや研究発表など多彩なプログラムが行われた。
基調講演は29日、大会長を務めたNPO法人日本スピリチュアルケアワーカー協会の山添正会長が「ケアする人のケア」と題して行った。
山添会長は「提供者もケアを受けないと、持続可能なケアはできない」との前提を示し、「日本人には『相手に負担をかける』として、ケアを受けることを躊躇(ちゅうちょ)する傾向がある。他者を優先し、自分のことは後回しにするという考え方の癖がある」と述べた。
その上で、スイスで暮らした自身の経験に基づき、「西洋の個人主義は、上手に人に頼ることで成り立っている」と強調。ケアを受ける厚かましさと、ケアを提供するおせっかいが一対の意識となったとき、相互性が生まれると考察した。
一方で、ケアを受けることをためらう慎み深さの背景には、〝お天道様〟のように、自分の意思や思考を超えた大いなるものの存在があるとも指摘。大いなるものへの素朴な畏敬の念という日本人の宗教性が、「ケアする人のケア」にも役立っていることを示唆した。
理念は「精神性高める」
30日には、シンポジウム「日本のスピリチュアルケアの実践と学びの場の形成過程―阪神淡路大震災から日本スピリチュアルケア学会の形成まで」が行われ、カトリック修道女で同学会創設者の髙木慶子氏らが登壇した。
日本スピリチュアルケア学会は2007(平成19)年に設立され、第1回学術大会は翌08年に今回と同じ兵庫県看護協会で開かれた。シンポジウムは、15年間でケアの実践と学びがどのように形成されてきたかを振り返り、学会の意義を確認する目的で開かれた。
髙木氏は「学会の理念は、私たち一人一人の霊性と精神性を高めることにある。どんなに学問や技術があっても、人は助けられない」と強調。学会設立に際して医師の日野原重明氏に手紙を送り、相談を持ち掛けたとのエピソードを明かした。
その手紙の内容に沿う形で、「全ての人が痛みを抱えており、日常生活の人間関係の中でケアされる必要がある」「誰に対しても、尊敬と信頼を持って接することが大事」などと指摘。「これらのことは、命を懸けても譲りたくない」と訴えた。
登壇者の神戸赤十字病院心療内科部長、村上典子氏は、阪神淡路大震災(1995年)とJR福知山線脱線事故(2005年)を機に、医師として災害・事故時の心のケアに携わるようになったことを、当事者の声を交えながら紹介した。
また、同じく登壇者のノンフィクション作家、柳田邦男氏は、ケアにまつわる具体的な事例を挙げつつ、日本死の臨床研究会の設立(1977年)から東日本大震災(2011年)までを概観。トラウマをきっかけとした心的外傷後成長(PTG)という概念を示し、「本当の意味のスピリチュアルケアは、日常の平凡な生活の場面に表れるのではないか」と語った。
【用語解説】スピリチュアルケア
人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。