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⑦コロナ死亡者と「お別れ」行う葬儀社

2023年2月1日

※文化時報2022年8月2日号の掲載記事です。

 新型コロナウイルスに感染して亡くなった人の火葬を巡り、東京都内の各火葬場は遺族の立ち入りを依然禁止している。このため故人との対面やお別れ、焼香、お骨上げなどは一切行えない状態が続いている。そうした中、目黒区の有限会社花心は、従業者4人という小規模葬儀社ながらも、コロナ禍が始まった当初から、新型コロナ死亡者の遺族が「お別れ」を行えるよう取り組んできた。30件超あった火葬のうち、実に約8割が実施したという。

 
「お別れ」は、霊柩車内で棺に納められた遺体と対面し、花を手向ける
「お別れ」は、霊柩車内で棺に納められた遺体と対面し、花を手向ける

火葬場の駐車場で

 花心の行った「お別れ」は、次の3通りだ。①火葬場Aの駐車場に止めた霊柩車(れいきゅうしゃ)内(20件超)②火葬場Bの近くのコンビニの駐車場に止めた霊柩車内(1件)③葬祭事業者の式場での葬儀(2件)

 ①と②では、新型コロナ死亡者の関係者が交代で霊柩車内に入り、棺ひつぎのふたを開け、顔の部分が透明になった納体袋越しに故人と対面した後、花を手向ける。③は今年から新型コロナ死亡者の葬儀を行っている葬祭事業者の施設を利用している。

 松本淳也社長によると、「お別れ」を希望する遺族に③の方法があることを説明するものの、住んでいる場所が離れていることや、葬儀を行うと料金が高くなることなどを理由に、①を選ぶ遺族が多いという。

 ②は火葬場Bが駐車場への遺族の立ち入りを禁止しているため”苦肉の策”として行っているが、火葬場Aも事情は同様のはずだ。

 この点について松本社長は「立ち入り禁止ということは、ご遺族にもきちんと説明しています」という。ただ、「グレーな方法だが、大目に見てくれるかもしれないと考えている。ご遺族に『どうされますか』とお尋ねすると、『それでかまわないからお別れしたい』という方が多い」と説明する。

「お別れ」を行っている火葬場の駐車場
「お別れ」を行っている火葬場の駐車場

花入れは最低必要

 花心は、なぜそこまでして「お別れ」を行うのか。

 新型コロナ死亡者に対し、葬儀社が何もしようとしないと、遺族は棺の窓から、納体袋に納められた遺体の顔だけを少し見て終わりとなる。その後は、お骨になってしまった状態でしか会えない。

 「これでは、あまりにひどすぎる。大切だった方の死が受け入れられず、ご遺族がずっとグリーフ(悲嘆)を抱えたままになってしまいかねない」

 そこで松本社長は、遺族が納体袋を開けて故人の体に触れる勇気まではないにしても、せめて花を手向けられるよう、駐車場に霊柩車を止めて行う方法を考えたのだという。

 とはいえ、遺族にその方法がいいと勧めているわけではない。あくまで選択肢の一つとして、選んでもらう。すると、8割が「お別れ」を希望するのだそうだ。

 残り2割が断る理由として挙げるのは「今まで十分に会っている」「火葬場までわざわざ行かなくてもよい」などだが、松本社長は「内心では、コロナに感染するのが怖いと思っている方も多いのではないか」と推察する。

子を抱き続ける母

 「お別れ」を行った遺族は、どのような様子なのだろうか。

 2~3歳の子が喉に物を詰まらせ、両親が救急車を呼んだ。病院に入った段階でPCR検査を受けたところ、陽性と判定され、そのまま亡くなってしまった。通常の新型コロナ死亡者として扱われたため、あちこちの葬儀社を当たっても引き受けてくれる所がなく、巡り巡って花心に依頼があったという。

新型コロナ感染死亡者の遺体を搬送している霊柩車(画像を一部加工しています)
新型コロナ感染死亡者の遺体を搬送している霊柩車(画像を一部加工しています)

 火葬場が空くのは5日後。両親は、子どもと一緒に自宅で4日間過ごすことを希望した。自宅では、子どもを棺に入れず、布団に寝かせて、母親が抱っこした。

 花心はドライアイスをきちんと当てるよう助言したが、両親は子どもが凍ってしまうと思って嫌がり、当てなかった。そのため、顔色が黒く変わってしまったが、それでも母親は抱きかかえながら4日間を過ごした。

 火葬当日は、自宅で子どもを棺に納め、霊柩車で火葬場に運んだ。駐車場に止めた車内で子どもの顔を見、花を手向けるなどして30分ほど一緒に過ごした。最後は、母親は棺にすがりついて号泣していた。

 「親御さんは、自宅で子どもと4日間一緒に過ごし、最後のお別れもできて良かったと、われわれに感謝されていた。たとえ簡単でも、『お別れ』は絶対に行った方がいい」。松本社長はそう強調している。

お寺は土地を貸して―松本社長の話

 私だって、お別れを駐車場なんかでさせたくはありません。新型コロナ死亡者であっても、読経を行うきちんとした葬儀をさせてあげたいです。最近、葬儀を行う葬祭事業者が出てきましたが、まだまだ数が少なく、都内に最低5~6カ所は必要でしょう。

 今後さらに強力な感染症が流行するようなことがあれば、もっと葬儀やお別れができなくなると懸念しています。もし、そういう状況になったとしても、きちんと感染対策が取れる安置所と、「お別れ」ができる場所が絶対必要だと考えます。

 しかし、当社のような小さな会社では、そういう施設はなかなかつくれません。

 私が以前から思っているのは、土地をたくさん持っているお寺が、30年の定期借地権でいいので、当社に貸してもらえないかということです。

 私は、真面目にそういう施設をつくりたいと考えており、小さな会社にも貸してくれるお寺さんが出てこられることを願っております。

 「塚本優と考える お寺のポテンシャル」では、福祉業界や葬祭業界を長年にわたって取材する終活・葬送ジャーナリストの塚本優氏が、お寺の可能性に期待する業界の先進的な取り組みを紹介します。

 

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