2023年2月5日
※文化時報2022年12月20日号の掲載記事です
介護にまつわる悩みやわだかまりを分かち合う介護者カフェ=用語解説=について、普及に努めている浄土宗総合研究所は、他宗派の寺院にもノウハウを提供する方向で検討を始めた。2023(令和5)年度の新規プロジェクトとして採用されることを目指す。介護者カフェの開催が地域社会にどのような影響を与えるか、宗派を超えて実例を集め、研究する狙いがある。(大橋学修)
浄土宗は介護者カフェを13(平成25)年に試行し、20(令和2)年から宗の事業として本格的に推進している。全国47教区に開催寺院を置くことを目標に定めており、今年度末までに27カ寺が開く見通しとなっている。
総合研究所は、これまでに開催している介護者カフェが、社会福祉協議会や地域包括支援センターの協力を得ながら、地域やお寺の特色に応じて多様な形で発展していることに着目。介護者カフェによって、地域社会と寺院の関係性がどう変化するかを調べることにした。
また、開催によって仏教全体に対する社会的信用の底上げにつながっている点にも注目。浄土宗に限った例ではないことを実証するため、他宗派の寺院にも介護者カフェを開くよう呼び掛けるという。
すでに、開催を希望する臨済宗僧侶から打診を受けており、プロジェクトが採用されれば、支援員の派遣などによって、サポートする。
開催支援の仕組み充実
浄土宗が行う介護者カフェの支援事業は、年1回のペースで研修会を開き、分かち合いの模擬体験を実施。希望する寺院には支援員を派遣し、行政との連携をサポートするなど、スタートアップへの手厚いメニューを用意している。
今年度の研修は、11月16日に教化研修会館(京都市東山区)で行われた。浄土宗僧侶7人が参加し、大半が宗の支援事業を利用して介護者カフェを開催する意思を固めた。
この日は宗の支援員としても活動する浄土宗総合研究所の東海林良昌氏が、介護者カフェの意義と開催への過程を解説。東京都健康長寿医療センター研究所の岡村毅医師が、認知症のメカニズムを説明した上で、宗教と介護者支援の親和性を伝えた。
分かち合いの模擬体験では、僧侶らがグループトークに参加。自身の親に対する介護の悩みや看取りの経験などについて語り合った。夫婦で参加した海圓寺(愛媛県宇和島市)の松本博隆氏は「海圓寺のある日振島から四国までは高速船で1時間半かかる。デイサービスもない島だが、独自の形で介護者カフェを開きたい」と話した。
僧侶ら連絡協議会を設立へ
お寺で介護者カフェを開く浄土宗僧侶らが、任意団体として連絡協議会を設立
する方針を固めた。傾聴を通じて知ったほかでは話せない介護者たちの悩みを、支援者同士で分かち合い、共有することで、より充実したカフェの開催につなげていくのが目的だ。
11月17日に京都市東山区の浄土宗金剛寺で開かれた「介護者カフェ―ネットワーク会議」で決まった。会議は情報交換と地域連携を狙いに不定期で行われており、この日が11回目。支援員として介護者カフェの立ち上げに携わる浄土宗総合研究所の東海林良昌氏が、設立を提案した。ネットワーク会議を組織化する方向で進める。
東海林氏は「ミーティングは大切。介護者カフェに来られた方々の話を一人で抱え込まず、開催者同士が緩やかにつながりながら、寄り合いの場をつくれれば」と話した。
東京都健康長寿医療センター研究所の岡村毅医師は「大切な人を亡くした人への支援を考える国の調査プロジェクトが検討されている。その受け皿になれる可能性がある」と指摘。超宗派団体にしてはどうかとの提案もあった。今後は浄土宗と調整を図りながら、連絡協議会の立ち位置を決めていく。
【用語解説】介護者カフェ
在宅介護の介護者(ケアラー)らが集まり、悩みや疑問を自由に語り合うことで、分かち合いや情報交換をする場。「ケアラーズカフェ」とも呼ばれる。主にNPO法人や自治体などが行い、孤立を防ぐ活動として注目される。