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⑪「お寺でおみおくり」年間130件超

2023年5月7日

※文化時報2022年12月6日号の掲載記事です。

 「お寺でおみおくり」のブランド名で「寺葬」を推進している一般社団法人日本寺葬協会(長野市)は、善光寺平を有する長野県の北信地域と東信地域を中心に146カ寺(11月現在)が賛同している。そのうち約7割は、まだ寺葬に取り組んだことのない寺院だ。積極的に行っているのは2~3割だが、昨年度の葬儀件数は130件、法事件数は80件を超えている。

お寺の荘厳で行う葬儀
お寺の荘厳で行う葬儀

 日本寺葬協会は2017(平成29)年11月、創業27年の石材店「やすらぎあん」の社長を務める小林弘和代表理事が設立した。「やすらぎあん」の年商は約2億円で、人口減少下の地方の石材店としては健闘している。

 協会設立の狙いと背景について、小林代表理事は「お墓の市場がどんどん小さくなって経営が行き詰まるのではないか―という危機感から、川上の葬儀に参入することにした」と話す。

 もう一つは、取引先の寺院から檀家や門徒、お布施の減少を食い止めるために「何か打つ手はないか」という相談が増えてきたからだった。小林代表理事は、今ある伽藍(がらん)を活用して葬式をきちんと行えば、檀家や門徒、地域住民とのつながりが増え、お寺を中心にした葬送文化を広げていけると考えたという。

葬祭会館と違う荘厳

「お寺でおみおくり」の大きな特長は、本堂で行うことだ。小林代表理事は「この事業を始めてお客さんから一番頂く声は『きちんとお別れができた』。須弥壇(しゅみだん)や本尊がある荘厳の中で故人を送るのは、葬祭会館などで行う葬儀とは違う」と話す。
 
事業開始当初は、お寺には必要な設備がそろっているため、葬祭会館などと比べ葬儀費用が安く済むことを一番の特長としてPRしていた。

お寺での「葬儀事前相談」
お寺での「葬儀事前相談」

 しかし、「お寺でおみおくり」を重ねる中で、一番のニーズはお寺の荘厳で親しみある住職が読経し、葬送することだと気付かされたのだという。

 もちろん、葬儀費用の安さや、近所のお寺で行えるため時間に追われずゆっくりお別れできるというアピールポイントもある。

協会が実務と営業担う

 事業スキームは至ってシンプル。住職はあくまで宗教者として尊厳のある立場で導師を務め、それ以外の実務や営業などは全て協会が担う。

 具体的には、代表役員や檀家・門徒総代、世話役などとの調整や、檀家・門徒への説明とプレゼンテーション、周辺住民へのマーケティング活動などだ。

 収入には、①葬儀料金②寺院使用料+光熱費③お布施があり、①は協会、②と③は提携寺院に入る。寺院使用料は提携寺院の希望を基本にしており、檀家・門徒は3万~20万円、それ以外は2~3割増で行っている。平均して最も多いのは、5~6万円プラス光熱費1万円だという。

 寺院が協会と提携すると、葬儀にかかる手間や費用が省け、寺院使用料とお布施が収入として入ることのほかに、住職一家のプライベート空間に配慮した葬儀プランの作成をしてもらえるメリットもある。

 また、お墓などを含めた境内地の有効活用策や長期的な販売計画の立案・実行の支援を受けられるという。

協会提案の境内墓地の再活性化の例
協会提案の境内墓地の再活性化の例

「充実感」でお布施増

 「お寺でおみおくり」の提携寺院数は、5年間で146カ寺となった。都道府県別では、長野県126カ寺、東京都10カ寺、愛知県10カ寺で圧倒的に長野県が多く、事業をスタートした北信地域と東信地域に集中している。小林代表理事によると、両地域には不活
動寺院を除くと約500カ寺があるというから、約4カ寺に1カ寺が提携している計算だ。
 
 提携寺院数が増えた要因は、協会の提案がお寺の危機感に合致したことも大きいが、小林代表理事は「今まで葬儀をしたいと思っていてもできなかった寺院が『これなら当寺でも行える』と提携するケースが多い」と明かす。

 寺葬の経験がこれまでにないというお寺は、146カ寺のうち約7割を占めるが、実際に「お寺でおみおくり」を行うお寺では「お布施が増えた」という声が多く上がっているという。「きちんと送れたという充実感が、お寺にお返しされているということだろう」と小林代表理事は話す。

「総代役員会」での事業説明
「総代役員会」での事業説明

 葬儀や法事件数も年々増えている。

 昨年度の葬儀130件、法事80件超という数字を、提携寺院のうち積極的に寺葬を行っている30~40カ寺で割ると、1寺院平均3~4件の葬儀と2件程度の法事を実施している計算になる。小林代表理事は「葬儀件数は、導入当初は少なく、徐々に増えていく。妥当ではないか」と見ている。

 今後の方針について、小林代表理事は次のように語る。

 「今後は、選ばれるお寺と選ばれないお寺の二つに分かれ、何を持っているかではなく、どんな人がやっているかで判断されるだろう。『お寺でおみおくり』は、人を導く存在である宗教者と、より良い葬儀を行っていきたい」

塚本優が聞いた「寺葬の可能性」
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