2023年7月12日
※文化時報2023年6月2日号の掲載記事です。
日本臨床宗教師会(会長、鎌田東二・京都大学名誉教授)は5月20日、せんだいメディアテーク(仙台市青葉区)で、臨床宗教師=用語解説=の養成開始とその礎をつくった岡部健医師の逝去から10年が経過したことを記念した特別シンポジウムを開催し、オンラインでも配信した。会員ら約200人が参加し、臨床宗教師の現状と課題を見つめ直す機会となった。
岡部医師は、宮城県を中心に在宅ホスピスに取り組んだ緩和ケア医。東日本大震災を受け、被災地支援と宗教者による公共空間での心のケアを目的に、東北大学に寄付講座の設置を提唱して臨床宗教師の養成につなげた中心人物でもある。
シンポジウムでは、全国各地の臨床宗教師会から寄せられた悩みや課題に対し、教育プログラム認定委員会▽資格認定委員会▽継続教育委員会▽研究委員会▽倫理委員会―がそれぞれ回答。資格取得条件の緩和、実践や学び直しの場の不足など、従来の養成システムの改革を求める声も少なくなかった。
資格認定委員会をはじめとした各委員会は、資格の一定の質を維持するため諸制度の緩和は行わないとしつつも、適宜改善する方針を示した。資格取得のみを目的で単位を取るケースがあるとの指摘もあり、指導者を含む全体の研鑽(けんさん)を通じて、臨床宗教師の質の向上が大きな課題となった。
岡部医師に縁の深い鈴木岩弓東北大学名誉教授、鈴木聡石巻赤十字病院副院長が「岡部健医師没後10年~岡部健の想い 臨床宗教師の原点を探る」と題して語り合った。2人は岡部医師が主張した死ぬ間際の「お迎え現象」や臨床宗教師への熱意について説明。生前のエピソードでは、彼の奔放な人柄をうかがわせた。
プログラムの終了後、岡部医院仙台の河原正典院長は10年間を振り返り「正直臨床宗教師がうまくいっているとは思わない。誰のために何をやりたいかを考え直し、臨床宗教師としての継続が負担なら資格を維持する必要はない」とコメントし、臨床宗教師会の現状に警鐘を鳴らした。
その上で「それでも臨床宗教師が必要だと思うなら、自分の臨床宗教師像を周りと話し合い、できることを考えるべきだ。稀有(けう)な若者が宗教者や臨床宗教師として役に立ちたいと門をたたいているなら、臨床宗教師会は彼らのためにひと肌脱ぐべきでないか」と呼び掛け、今後を考える上で多くの課題が浮上したシンポジウムとなった。
【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は21年9月現在で214人。