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困り事は何でも任せて!大正大学・学生出前定期便

2023年8月1日

※文化時報2023年6月20日号の掲載記事です。

 大正大学(髙橋秀裕学長、東京都豊島区)の社会共生学部社会福祉学科は、学生が近隣の高齢者や障害者宅を訪問し生活の困り事をサポートする「学生出前定期便」を行っている。豊島区民社会福祉協議会と連携した授業の一環で、社会福祉関連の仕事を目指す学生が地域に貢献しながら現場を経験できる貴重な機会となっている。担当の宮崎牧子教授は「高齢者と学生が、互いに感謝して感謝される喜びを知ることで、新たな共生社会の形が生まれつつある」と語る。(山根陽一)

 5月30日、同区巣鴨のアパートで暮らす八木祥子さん(87)方を、豊島区民社協の社会福祉士、石森麻里子さんと社会共生学部社会福祉学科4年の広井大登さん、梅宮遥稀さんが訪れた。

「学生出前定期便」専用の電動自転車で現場を訪問する広井さん(右)と梅宮さん
「学生出前定期便」専用の電動自転車で現場を訪問する広井さん(右)と梅宮さん

 腰痛を患い、高所の掃除ができなくなった八木さんの代わりに、エアコンと換気扇を清掃。夏本番を迎える前に空調を万全にし、台所を快適に使いたいとの願いに応えた。

 「電気屋さんに頼むと時間もお金もかかる。学生出前定期便だと無料だし、気軽に話ができるのがありがたい」と八木さん。依頼するのはこれが2度目という。

 エアコンの清掃を担当した広井さんは「介護の仕事に就きたいので、こういう機会は貴重。高齢者は皆、うれしそうにしてくれる。『ありがとう』と言われると、私もうれしくなる」。医療系福祉機器商社に就職予定の梅宮さんは「換気扇の取り外しに苦労したが、スマートフォンで検索して何とか解決した。訪問先で経験する全てが仕事に生かされると思う」と話した。

 2人を指揮した石森さんは「授業の一環なので学生たちは真剣だし、独居の高齢者の暮らしぶりを知ろうという気持ちも強い」と評価していた。

弱者の心に寄り添う

 電球の交換やカーテンの取り換え、植木の植え替えに重い荷物の移動…。「学生出前定期便」に依頼があるのは、力仕事や細かい作業など、高齢者らが苦手としていることだ。その大半は、介護保険が適用されないインフォーマル(制度外)な支援である。

エアコンを掃除する広井さん
エアコンを掃除する広井さん

 豊島区民社会福祉協議会が窓口となり、大正大学へ連絡される仕組みを取っている。高齢者の単身世帯が多い巣鴨界隈での需要は少なくない。

 始まったきっかけは、2008(平成20)年に行われた「社会福祉実践分析研究」という大学院生対象の授業。14年に豊島区民社協のコミュニティソーシャルワーカー(CSW)=用語解説=の拠点が大学の近隣にできたことで連携が強化され、学部生を中心とした活動になった。

 指導する宮崎教授は、日本ソーシャルワーカー協会副会長、日本介護福祉学会編集幹事などを務める第一人者で、現場での実践教育に重きを置く。「最も重要なのは、高齢者や障害者など社会的弱者の心に寄り添うこと。現場で交流することによって、社会に役立ちたいという気持ちが生まれてくる」と、授業としての意義を語る。

 すでに30~40人が巣立っており、中には福祉専門職として活躍している卒業生もいるという。

草創期から地域と

 宮崎ゼミの実践教育は、学生出前定期便以外にも老人クラブ支援や地元の公園再生などがある。いずれも地域社会や住民と結び付きが強いテーマだ。

宮崎牧子教授
宮崎牧子教授

 「本学が地域との連携を重視し始めたのは、03年に就任した星野英紀第31代学長が『地域に出ていこう』との方針を示したことに始まる」と宮崎教授。さらにさかのぼると、1910年代から大正大学の前身、宗教大学で教鞭(きょうべん)を執っていた浄土宗僧侶、長谷川良信(1890~1966)に行き着くという。

 長谷川は通称「二百軒長屋」と言われた西巣鴨のスラム街に移住し、学生を率いてさまざまな救済活動を行っていた。地域の困り事を解決しようとする精神の原点だといえる。

 26年に創立100周年を迎える大正大学には、草創期から地域との共生を目指す思想が息づいている。

【用語解説】コミュニティソーシャルワーカー(CSW)

 地域で生活に問題や不安のある人と関係をつくり、適切な援助を提供する専門職。制度やサービス、住民の支援などを組み合わせ、コーディネートする。

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