2023年10月14日
※文化時報2023年5月2日号の掲載記事です。
真言宗智山派正福院(東京都台東区)が墓地内に建立した永代供養墓が好調だ。2018(平成30)年の販売開始から22(令和4)年末までに80契約分が売れ、法要・塔婆の依頼が過去最高を記録したという。16年に就任した加久保範祐住職の新たな取り組みといい、寺院収入は住職交代前の1.5倍に上った。何が要因だったのか。
加久保住職は、住職となって最初の1年間は何もしなかった。まず、お墓参りに来た檀信徒が帰る際にお茶を出し、意識的に会話するようにした。また、公益財団法人全日本仏教会の事務総局に務めていたことから、供養業界に知人が多く、意見を聞いた。つまり「これから何をしたらいいか、何ができるのかを、1年間かけて考えていた」という。
そこから出した結論が、永代供養墓の建立・販売だった。
正福院は東京メトロ銀座線稲荷町駅から徒歩5分の場所にある。この好立地と、お寺が持つ有形無形の資産を熟慮し、次世代に安定した経営基盤を継承させようと考えた。
どのような永代供養墓を建立し、どう集客・販売するかについては、寺院専門のコンサルタントと半年契約を結び、相談しながら進めた。その結果、永代供養墓は、合同の安置室に骨つぼのまま23年間安置できるタイプとし、価格は1霊30万円(税込み)に設定した。
骨つぼと墓標は、複数の契約が多い。まずは骨つぼを90件分収容できる第1区画を18年から販売開始。コンサルタントは「5年で7割売れればいいだろう」と見ていたが、2年で完売した。さらに90件分収容できる第2区画を造り、これも現在までに6割売れた。「当初予想の倍以上のペース。自分でも驚いている」と加久保住職は話す。
予想以上のペースで売れた要因の一つは、お墓の紹介会社2社と提携したことだ。これまで売れた80契約のうち、8割が紹介会社を経由している。
しかし、紹介があっても、成約に至るかどうかは加久保住職夫妻の応対次第というところもある。見学にきた人に対し、加久保住職は「売りたいけれども、無理して売ろうとはしていない」と明かす。
「どういうものを希望されているのかをよく聞き、例えば、当寺の永代供養墓とかけ離れた希望だと、『うちでない方がいいかもしれません』と言っている」「気に入った方でも『決める前に、親子や兄弟とよく話し合ってください』と必ず伝えている」
後にトラブルになることを避ける意味合いに加えて、一度遺骨を預けると顔を出さなくなりがちといわれる永代供養墓の短所をカバーし、そういう人を少なくする狙いがある。
その結果、永代供養墓の購入者は従来の檀信徒(約200軒)と同様の付き合いをお寺とする人が多いという。
正福院ではまた、四十九日や一周忌、三回忌の法要をお寺で行う人が多く、「永代供養墓を契約された方の7~8割は法要を行っている」。
法要を行えば、塔婆を依頼する人も増える。1法要当たりの本数は2~5本と、従来の5~8本に比べて減ってはいるものの、法要自体の件数が増えたため、塔婆の総数は増えた。
お墓の紹介会社を経由した永代供養墓の購入者でも、なぜ法要や塔婆を依頼する人が多いのか。加久保住職は次のように話す。
「お墓の紹介会社の営業担当者は『住職夫妻が檀信徒さんの目線に立った応対をしているので、お墓参りがしやすく、供養をお願いしようと思う人が多いのではないか』と言っている」
加久保住職は、住職になった時、法要は年120件、塔婆は年千本という目標を設けた。なかなかクリアできなかったが、永代供養を販売し始めてから4年目の21年に突破した。
「ゆっくり着実に増えてきたので、今後減ることはないだろう。現在の数値をベースに、さらに増やしていきたい」。加久保住職は、そう意気込みを語っている。
私は今年64歳になります。今後に関しては、次世代のことも考えなければなりません。
長男の範順が副住職となり、現在は大本山髙尾山薬王院に勤めています。いずれ当寺に入って跡を継いでくれることになりましたが、難題は檀信徒さんの情報をどう引き継ぐかです。
当寺では、檀信徒さんごとに「覚え書き帳」を作っています。内容は簡単な家系図です。これを今後どう使っていくか、次世代にどうやって渡していったらよいのかを悩んでいました。
2年ほど前、檀信徒さんの情報管理ソフトを開発した会社から導入を勧められ、すぐ使うようにしました。まず永代供養墓を購入された方々の情報から打ち込み、法要の案内や管理などに活用しています。
今後は、従来からの檀信徒さんの情報も入れて、私たち夫婦で活用すると共に、副住職夫婦とも共有しながら次世代に渡していく考えです。(談)