2024年3月11日 | 2024年7月9日更新
※文化時報2024年1月30日の掲載記事です。
阪神・淡路大震災では、海外にルーツを持つ人たちも大勢が被災し、174人が犠牲となった。これを教訓に、言語学者らによって被災した外国人への情報伝達を目的とした「やさしい日本語」が開発された。開発者の一人、佐藤和之氏に背景と課題を尋ねた。(佐々木雄嵩)
――「やさしい日本語」の開発の背景を教えてください。
「阪神・淡路大震災では在留1年未満の外国人が情報を十分に得られず、二重三重に被災していた。自然に言語ごとの集団が構成されたが、情報不足は解消されなかった」
「さまざまな言語を話す外国人に、等しくかつ遅滞なく情報を伝えるには、彼らが使える日本語の語彙の範囲内で知らせることが最善と判断した」
――表現で工夫した点は。
「必要最低限の『被災地で生き延びるための情報』を伝えると決めた。氾濫する情報に埋もれないよう、また外国人が自分たちへの情報であることを理解して聞いてみよう、読んでみようと思える表現を選んだ」
「誤訳がなく、難解な日本語の情報を補完できる表現は、日本人向けにも活用できることが分かった」
《検証実験を繰り返し、理解率8割以上が担保されたことで、実用化に向けた動きが進んだ》
――普及状況はどうですか。
「2011(平成23)年の東日本大震災での活用により、急速に広まった。外国人支援に訪れた全国の国際交流協会の職員らがその効果を体験したことが、普及を加速させた」
《全国の行政機関などにも取り入れられているが、1日の能登半島地震では十分に活用されていない》
――可能性と課題をどう考えていますか。
「『やさしい日本語』は、日本が果たさなければならない多文化共生社会の実現に必要不可欠。さらなる浸透が望まれる」
「外国人のみならず、子どもから高齢者まで、障害のある日本人にも適切に伝わるという特長がある。外国人のためだけでない、という利点には大きな価値がある。行政だけでなく、支援団体にも積極的に活用してほしい」