2024年3月15日 | 2024年7月9日更新
※文化時報2024年1月30日号の掲載記事です。
寺院支援を手掛ける株式会社366(伊藤照男CEO、東京都港区)はNTT東日本と共同で、高齢者見守りサービス「おてらコール」を開発した。寺院が近隣の高齢者と電話回線でつながって安否確認するシステムで、今月から東京、愛知、高知で実証実験を行っている。電話さえあれば登録可能とあって、伊藤CEOは「寺院が地域に溶け込む実効性のある仕組み。高齢者の孤独感を軽減することにも貢献できる」と話す。
おてらコールは寺院から一人暮らしの高齢者に自動で電話をかけ、住職による60秒ほどの法話と安否確認のための簡単な質問を流す。異常を察知した場合は寺院から家族や地域の社会福祉関係者に連絡し、対応。利用者は身の回りの相談事を登録することもできる。
最大の特徴は、高齢者が不得手とするIT機器を必要とせず、使い慣れた電話だけで済むこと。伊藤CEOは「多種多様な見守りサービスが開発されているが、カメラなどで『監視されている』と感じる高齢者は多い。負のイメージを払拭し、生活に根差した電話というツールで気軽にできるのは大きい」と指摘する。
366はこれまで樹木葬などの墓地企画や納骨堂、寺院運営のコンサルティングなどを展開してきたが、最近ではデジタルトランスフォーメーション(DX)=用語解説=を活用して寺院と地域住民の関係を再構築する事業にも注力している。
今回のおてらコールもその一つで、NTT東日本の見守りサービス「シン・オートコール」を元に開発した。シン・オートコールは、実際に録音した音声を人工知能(AI)とクラウド技術で固定・携帯電話へ一斉発信するシステムで、防災・防犯などに利用されている。2021年9月に埼玉県上里町、22年3月に岩手県陸前高田市でこれを使った避難訓練が行われた。
お寺は都市部と過疎地を問わず、檀家が減少している。打開策として地域のコミュニティー機能を強化したり、住民の居場所づくりを行ったりする寺院は多いが、実効性のある取り組みは少ない。この点、伊藤CEOは「檀家でなくても加入できるおてらコールは、気軽にお寺とつながれる。寺院が社会から必要とされる存在であるために、有効な手段になり得る」と意義を語る。
今月から実証実験を行っている3カ寺も期待を寄せる。
日蓮宗善法寺(高知県仁淀川町)の渡邊泰雅住職は「高知は台風などの自然災害が多く、幾重ものネットワークが必要。過去には高齢者が事故に巻き込まれ発見が遅れることもあったが、そうした事態を回避するにも機能させたい」。浄土宗大法寺(愛知県愛西市)の長谷雄蓮華住職は「周囲に一人暮らしの高齢者は多い。寺院として何かできないかと導入したところ、早速『安心できる』という声を頂いた」と話す。
また、真宗大谷派光圓寺(東京都港区)の櫻田純住職は、現在5人ほどから申し込みがあると明かし、「地域住民同士がつながる契機になればいい。生活の中にお寺があることを思いだす方もいるのではないか」と展望を語った。366は実証実験を6月まで続け、それ以降は本格的に全国展開を進めるという。
【用語解説】デジタルトランスフォーメーション(DX)
企業がデータやデジタル技術を活用し、製品やサービス、業務や組織などを変革して、競争の優位に立つこと。経済産業省が2018年、推進するためのガイドラインをまとめた。