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〈文化時報社説〉同性婚 家族の形、考える契機に

2024年5月5日

※文化時報2024年3月29日号の掲載記事です。

 同性婚を認めない民法や戸籍法の規定は憲法に違反するかどうかが問われた訴訟で、札幌高裁は14日、「違憲」との判決を出し、憲法24条1項が定める「婚姻の自由」には同性間の婚姻も含まれる、と初めて判断した。性的少数者=用語解説=の苦悩に寄り添う宗教者のみならず、宗教界全体が家族のありようについて再考する契機とすべきだ。

社説・同性婚
社説・同性婚

 全国5地裁に提訴された6件のうち、今回が初の高裁判決だった。北海道の同性カップル3組が国に計600万円の損害賠償を求めたのに対し、札幌高裁は請求こそ退けたものの、憲法が同性婚を保障しているとの解釈を示した。

 憲法24条1項には「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立する」「夫婦が同等の権利を有する」との表現がある。このため各訴訟の地裁段階では、男女すなわち異性間での婚姻を想定していると理解された。

 これに対し、札幌高裁は「人と人との自由な結び付きとしての婚姻」を定めた趣旨があるとみなし、「同性間の婚姻も異性間と同じ程度に保障している」と明示した。

 朝日新聞は翌15日付朝刊で、斎藤清文裁判長の「付言」に着目した。付言とは文字通り、判決の中で事実認定や法解釈に含まれない付け足しの部分である。それでも、同性婚について「異性婚と同じ婚姻制度の適用を含め、早急に真摯な議論と対応が望まれる」と踏み込んだ点に意義を見いだした。

 これと正反対の立場を鮮明にしたのが、産経新聞だ。16日付朝刊の主張(社説に相当)で「社会の根幹を成す伝統的な家族制度を壊しかねない不当な判決である」と批判し、憲法24条1項の解釈に対しても「無理がある」と断じた。さらに「性的少数者への差別解消や権利擁護と、結婚や家族のあり方の議論は分けて考えるべきだ」と強調した。

 だが、これこそ無理がある理屈だろう。

 原告の同性カップルは、まさしく差別解消と権利擁護を求めて国を訴え、異性カップルと同じく社会で当たり前の存在として認められることを求めた。異性間の婚姻を前提とする現在の社会保障制度は、同性を配偶者と見なさないものが多く、自治体のパートナーシップ制度=用語解説=では不平等が解消されないとの見方は強い。

 いまや日本の世帯で最も多いのは単独(単身)世帯で、全体の約38%を占める。それなのに福祉の現場では、家父長制に基づく「伝統的な家族制度」の呪縛が本当に困っている人を苦しめている。同性婚も、こうした文脈で考える必要がある。

 翻って宗教界はどうか。

 「家の宗教から個の自覚へ」と、真宗大谷派が同朋会運動で提起してから60年以上経過したにもかかわらず、いまだに家単位での布教伝道に重きを置く教団が多いのが実態ではないか。

 もし葬式や後継者問題で「伝統的な家族制度」に依存しているのなら、社会の潮流に逆行していると言わざるを得ない。宗教界は家族の在り方を今回の同性婚判決から切り離すことなく、地続きの問題として捉え直し、議論すべきである。

【用語解説】性的少数者

 性的指向や性自認のありようが、多数派とは異なる人々。このうちレズビアン(女性の同性愛者)、ゲイ(男性の同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(身体の性に違和感を持つ人)の英語の頭文字を取ったのがLGBTで、クエスチョニング(探している人)を加えてLGBTQと呼ばれることがある。

【用語解説】パートナーシップ制度

 同性カップルがパートナー関係にあることを自治体の首長に宣誓し、婚姻に相当する関係と認められる制度。婚姻と同様の行政・民間サービスを受けやすくなる。2015(平成27)年に東京都渋谷区と世田谷区で初めて導入され、全国390以上の自治体に広がっている。

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