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④「素焼きメッセージ骨壺」開発 かじや本店

2024年5月13日

※文化時報2023年12月5日号の掲載記事です。

 葬儀社のかじや本店株式会社(千葉県富津市)は、表面に絵や文字を自由に描ける「素焼きメッセージ骨壺(こつつぼ)」を開発し、2022年9月から全国の葬儀社向けに販売している。同社で行う葬儀でも、遺族の半数がこの骨壺を使うという。平野清隆社長は「骨壺をきっかけに他の商品・サービスにもこだわる可能性がある。現在の低価格葬から“こだわり葬”へ転換していくチャンス」と捉えている。

 世界で一つだけの、自分が入りたい骨壺をつくりたい―。

 平野社長が素焼きメッセージ骨壺を開発したのは、父親が急死し、自分もいつ死ぬか分からないと考えて終活を始めたからだった。

 遺影写真はすぐに決まったが、「お客さまに何種類もの骨壺を見せて選んでいただいている葬儀社なのに、自分が入りたいと思う骨壺はなかった」。自分が入りたいのは、子どもたちに絵を描いてもらえる骨壺だったという。

2人の子どもが描いた社長用の骨壺
2人の子どもが描いた社長用の骨壺

 そこで、文字だけでなく絵や手形などもあしらうことができる素焼きに目をつけた。素焼きだと、インクなどが染み込むので、絵や文字をはっきり残せて劣化もしづらい。故人のメッセージは生前に、亡くなってからは遺族や参列者が絵を描き足すこともできる―などの良さもある。

遺族の半数が選ぶ

 この骨壺は、自社で仕入れ・販売するだけでなく、「たくさん販売してリーズナブルな価格にできれば、ユーザーにも、ほかの葬儀社にも役立つ商品になる」と考え、冠婚葬祭用具・用品の株式会社萩原(東京都墨田区)に相談。かじや本店は開発元として特許を出願し、萩原は販売会社として全国の葬儀社に卸売りすることで話がまとまった。卸価格は、一般的な白い骨壺と同程度。販売価格は葬儀社の自由だが、「7寸で1万3000円くらいが多くなるだろう」と想定している。

 かじや本店では葬儀を行う遺族に複数の骨壷を見せて選んでもらっており、平野社長の2人の子ども(8歳と5歳)が描いた骨壺などを見て、遺族の半数が素焼きメッセージ骨壺を使っている。

平野社長の娘が描いている様子
平野社長の娘が描いている様子
平野社長の息子が描いている様子
平野社長の息子が描いている様子

 使った遺族のうち、小さな子どもや孫がいて、仲が良い家族が9割を占める。「故人をきちんと見送ることができた」「達成感が生まれた」など、使って良かったという声が多く寄せられているという。

 近年では、子どもを葬儀に参列させない親がおり、参列させても子どもが退屈しないように動画などを見せているケースが増えているといわれるが、平野社長は次のように話す。
 「小さな子どもでも、メッセージ骨壺を描くことにより、葬儀にも進んで参加している。若い時からお別れに携わっていれば、お別れの大切さが分かり、自分が大人になっても葬儀を行おうと思う子供が増えてくるのではないかと感じている」

“こだわり葬”へ転換

 一方、萩原での卸販売の状況は、「葬儀業界は閉鎖的なので広がるには時間がかかる。萩原さんからは『3年かかる』と言われている」そうだ。加えて葬儀社のビジネスとしては、価格が高い商品ではない上に、勧めるにも従来の骨壺より手間暇もかかり、さほど魅力的ではない。

 しかし平野社長は、素焼きメッセージ骨壺にはそれを補って余りある可能性がある」と考えており、次のように語っている。

かじや本店の葬祭会館「和葬空間 か志゛屋」の外観
かじや本店の葬祭会館「和葬空間 か志゛屋」の外観

 「この骨壺を選ぶ人には、故人に何かしてあげたいという気持ちがある。骨壺にこだわるということは、花、ひつぎ、返礼品などにもこだわる可能性があり、低価格葬から“こだわり葬”へ転換していくチャンスになる。転換できなければ葬儀社の未来は暗い。次世代のためにも、転換を追求していく」

塚本の目

 素焼きメッセージ骨壺は、お寺では「寺葬」を行っているところに関わりがあるだろう。

 平野社長は、寺葬を行っている2カ寺にこの骨壺を使うことを提案。そのうちの1カ寺の住職は「骨壺に自分の思いを記すことは、故人とお互いに心のやり取りをすることにつながるので、故人への供養になり、自分の良い生き方にもつながる」と、高く評価したという。

 この住職は、自身の母親の葬儀でこの骨壺を使用。本堂で眠る母親の前で、住職が骨壺に「南無~」と書き、ふたには住職の子どもが蓮(はす)の絵を描いた。住職はさらに、家族が亡くなった檀家に配るために、素焼きメッセージ骨壺を5個注文した。反応を見て、好評であれば全檀家に配る予定だという。

 平野社長は「エンディング産業展に来場した僧侶5人に説明したが、皆さん興味を示し、否定的な人はいなかった」と付け加えた。

 こうした反応からすると、この骨壺は、葬儀社よりお寺の方が広がっていくのかもしれない。

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