2024年9月9日
※文化時報2024年7月2日号の掲載記事です。
西山浄土宗来迎寺(福井隆和住職、京都府向日市)は、地域の人々が憩う空間「釈迦fe(シャカフェ)」の開設を機に、困窮する子どもたちの居場所づくりや地域食堂、マルシェなど週替わりで多彩な活動を行い、常に誰かが通うお寺になった。中心になっているのが、寺庭婦人の福井ともみさん(60)。「毎日忙しいけれど、皆さんとつくり上げることは楽しく、幸せを感じる」と話す。(大橋学修)
山門をくぐると、右手に「釈迦fe」と書いた木製看板を掲げた2階建ての離れがある。床暖房が施されたフローリングには、木製のテーブルと椅子が並び、壁面には児童書を収めた木製本棚が作りつけられている。温かみのある空間だ。
ここでは、生活困窮家庭や不登校の子どもたちの居場所「かむはぴ」が毎週月曜と金曜に開かれ、土曜には、「かむはぴ」を卒業した大学生ら青少年が自由に過ごす。
子どもたちは、学習指導を受けたり、スタッフと境内で遊んだりと、自由に過ごす。
「自分で育てた豆で豆腐づくりがしたい」という子どもの声を聞き、畑での栽培にも取り組むようになった。
ともみさんは「何もしなくていい場所。しんどいなら寝ていてもいい。もしやりたいことがあれば、全面的に協力する」と語る。
「釈迦fe」は2017(平成29)年秋にオープン。ともみさんは、困窮の連鎖=用語解説=をもたらす複合的な課題に取り組みたいと考えていたが、支援を必要とする家庭につながる方法が分からなかった。
そんな中、困窮家庭支援のケースワーカーをしていた向日市職員が、学習支援の場を開くことを持ち掛けた。地域の民生委員から「釈迦fe」の存在を聞きつけ、お寺の落ち着いた空間に着目したという。
18年4月に学習支援をスタートさせると、不登校の子の親たちが「私たちの子どもも参加させてほしい」と申し入れた。こうして多様な子どもが集まる「かむはぴ」が誕生した。
不登校の子の親たちが集う場「つながろCAFE」を毎月第3日曜に開くようにした。つらい気持ちを語り合ったり、お茶を飲んでほっこりしたり。今は親だけが集まっているが、ストレスをためる不登校児のきょうだいも過ごせる場にしようと考えている。
ともみさんは「住職とはいつも『お寺を地域の頼れる場所にしていこう』と話している。そうやって、学校や病院の機能を備えていた昔のお寺のように、存在価値のあるものにしていきたい」と力を込めた。
本の交換会などを行う市民団体「むこうスタイルLABO」(前川俊幸代表)と連携し、幼い子どもと親が境内でくつろぎながら、心を分かち合う居場所「あおぞら図書館」も開催。これを毎月第1土曜の「来迎寺マルシェ」に発展させ、紙芝居や本の読み聞かせを行うコーナーを設けた。
当初は来場者が少なかったが、マルシェで振る舞う精進カレーが人気を呼ぶようになった。その名も「来福ちゃんカレー」。季節の野菜に、来迎寺のキャラクター「来福ちゃん」の焼き印を押した薄上げをトッピングしてある。大人500円、子ども300円で、子どもたちを支援したい大人が事前に食券を購入しておく「こどもまんぷくチケット」で、中学生以下は無料で2杯まで食べられる。
食を通じたつながりは、高齢者ともつくっている。見守り活動として、コロナ禍を機に始めた朝がゆの宅配は、福井住職が今も続けている。昨年9月からは、毎月第3土曜に地域食堂「みんなの食堂」を本堂で開催。一人暮らしの高齢者が、世代を超えて交流する場となっている。
近所の人や社会福祉協議会から紹介された生活困窮者など、常に20人ほどが集まる。調理を担当するのは、檀信徒ら14人ほどのボランティアだ。
福井住職は「伝統行事も大切だし、お寺が開かれた場であることも大切。地域の人々の集う場になってほしい」と話した。
【用語解説】困窮の連鎖
困窮が親から子へ連鎖すること。経済、健康、障害、家族関係などの複合的な課題を解決することが必要とされ、2013(平成25)年12月には地域での包括的な支援に向け、生活困窮者自立支援法が制定された。