2022年10月29日
新型コロナウイルスの感染が拡大する前の話ですが、首都圏で複数の高齢者施設を運営する大手介護会社が、若手のお笑い芸人を招きました。
目的は二つ。一つは、各施設のレクリエーションとして漫才を披露してもらうこと。二つ目は、現場で働いているスタッフに「短時間で人の心をつかみ、笑顔にさせるノウハウ」を学んでもらうことでした。
彼らは複数の施設を回り、レクだけでなく、食事の場にも顔を出したり居室を訪問したりして、盛んにコミュニケーションをとって利用者を笑顔にしていきました。
彼らが帰った後、所属事務所からその会社に1本の電話がかかってきました。
彼らは事務所に今回の訪問の報告をした際、ユニークな提案を行っていました。「利用者の中に、良いボケをかましたり鋭いツッコミをしたりと、お笑いのセンスのある人が結構いた。自分たちとお年寄りで舞台に立ってみたらどうだろうか」と。
「おじいちゃん・おばあちゃんと孫という新しいスタイルの漫才は話題になるのでは」とのアイデアでした。電話の用件は「うちの若手と一緒に舞台に立ちたい人がいるかどうか、利用者に聞いてもらえないだろうか」というものだったのです。
「まさか、そんな人はいないだろう」と思いつつ、利用者の前で「この前遊びに来てくれた芸人さんが、皆さんと漫才をしたいそうです。舞台に立ってみたい人はいますか」と尋ねました。すると、何人かが手を挙げたそうです。
結局「万が一、舞台の上で何かあったら困る」との理由から、このプランは実現しませんでしたが、「利用者が、私たちの想像もつかないような夢や希望を持っていることが分かっただけでも大きな収穫でした」とこの会社の方は語っていました。