2025年7月25日
すきなものの中に必ず私はいる
――陶芸家、河井寛次郎(1890~1966)

京都の東山五条に、陶芸家・河井寛次郎の作品を展示する「河井寛次郎記念館」があります。
京町屋風の建物は、寛次郎自身が設計した自宅兼アトリエです。日光が差し込む暖かな空間には、寛次郎の制作した作品が無造作に展示されています。
なぜ、このような展示方法が取られているのでしょう?
寛次郎は、柳宗悦や浜田庄司らと共に「民藝(みんげい)運動」を主導したことでも知られています。芸術家の手による美術品に対して、無名の職人の生み出す「民藝品」にも美しさが宿ると提唱したのです。
寛次郎は、陶器をはじめとして木彫や金工などさまざまな作品を制作しました。しかし作品の多くに銘やサインを入れず、名もなき民藝品としての美しさを表現しました。
すきなものの中に必ず私はいる—。この言葉を語ったときに寛次郎の頭にあった「すきなもの」とは、かけがえのないものというより、日常を彩る民藝品であったのでしょう。
せわしない日々を過ごしていると、「私」はないがしろにされがちです。ですが、毎日使う日用品を少しずつ「すきなもの」に置き換えていけば、豊かな自分自身を見つけることができるかもしれません。