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「文化時報」コラム

㉑知ってしまった以上は…(下)

2023年2月22日

※文化時報2022年6月17日号の掲載記事です。「上」からの続きです。

 周防正行監督に初めて登壇をお願いしたのは、2014(平成26)年10月に鹿児島で開催した九州弁護士会連合会大会シンポジウムだった。

ヒューマニズム宣言サムネイル

 

 志布志事件、大崎事件という冤罪(えんざい)事件を経験した鹿児島から、「ガラス張りの刑事司法制度」への改革を訴えたこのシンポジウムで、周防監督は法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」の有識者委員を務めた経験を基に、一般市民の目線から見た刑事司法の歪(いびつ)さを鋭く指摘し、それに慣れっこになってしまった私たち法律家に警鐘を鳴らしてくれた。

 翌年、福岡で行われたイベントの懇親会で再会した周防監督の言葉が忘れられない。

 「僕に『たかが痴漢冤罪の映画を1本作ったぐらいで、どうしてそこまで刑事司法の問題にコミットするのか』と聞くやつがいるけど、逆にどうしてそんなことを俺に聞くのかって思うんだよ。だって知ってしまったんだよ。知らなかった頃には戻れないじゃないか」

 鹿児島で大崎事件のことを「知ってしまった」周防監督は、この言葉を体現するかのように大崎事件の支援と再審法改正に向けた活動に精力を注ぐようになった。

 第3次再審申し立ての時には鹿児島地裁まで駆け付け、その後各地で行われた大崎事件に関する集会に何度も登壇し、考え抜かれた言葉で聴衆の心を揺さぶった。

 「僕たちは学校で『裁判所は人権を守る最後の砦とりで』と教わってきたのに、最近の裁判所は『権力を守る最後の砦』になってしまっている。裁判所には、これ以上僕を絶望させないでくれ、と言いたい」

 「僕は、『それでもボクはやってない』のラストに、アメリカで被告人とされたある女性が陪審員に訴えた言葉を字幕で入れました。『どうか私を、あなたたち自身が裁いてほしいと思うやり方で裁いてください』と。裁判官には、自分が裁かれる立場になったときのことを考えて原口アヤ子さんを裁いてほしいと伝えたいです」

 第4次再審では弁護団のためにクラウドファンディングの呼び掛け人となり、集めた資金で事件当時の現場再現映像を自らメガホンを取って制作した。ついに「本業」で弁護団を支えてくれたのである。

 その第4次再審で、鹿児島地裁は22日に決定を出す。その1週間前に95歳の誕生日を迎えるアヤ子さんに、4度目の再審開始決定をプレゼントできるのか。その瞬間を分かち合うために、周防さんはすでに鹿児島までの往復航空券とホテルを手配したという。

【用語解説】大崎事件

 1979(昭和54)年10月、鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さん(当時52)と元夫ら3人が逮捕・起訴された。原口さん以外の3人には知的障害があり、起訴内容を認めて懲役1~8年の判決が確定。原口さんは一貫して無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定し、服役した。出所後の95年に再審請求し、第1次請求・第3次請求で計3回、再審開始が認められたものの、検察側が不服を申し立て、福岡高裁宮崎支部(第1次)と最高裁(第3次)で取り消された。2020年3月に第4次再審請求を行い、鹿児島地裁は22年6月に請求を棄却。弁護団は即時抗告し、審理は福岡高裁宮崎支部に移った。

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