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「文化時報」コラム

㊵舞台裏の舞台裏

2023年8月7日

※文化時報2023年5月12日号の掲載記事です。

 読者の皆さまは昨年10月から12月にかけてフジテレビ系列で全国放送されたドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』(関西テレビ制作)をご覧になっただろうか。安倍晋三政権下で、報道番組の忖度(そんたく)や偏向が取り沙汰されるようになった2018年頃のテレビ局を舞台に、報道番組やバラエティー番組の制作の舞台裏を赤裸々に描いた「バックステージ物」である。

ヒューマニズム宣言サムネイル

 長澤まさみが演じた主人公の浅川恵那は、女子アナウンサーのエースと目されていたが、週刊誌に「路上キス」写真をスクープされたことで、深夜バラエティー番組のスポットMCに降格されたという設定。この浅川恵那と、両親ともに弁護士だが父親は早逝、その後、母親の溺愛を受けて育った経歴を持つ若手ディレクター・岸本拓朗(眞栄田郷敦)が、あるきっかけから知った死刑冤罪(えんざい)事件を追い、さまざまな軋轢(あつれき)や圧力にさらされながらもスクープ報道にこぎ着けようと奮闘する。

 最近は刑事裁判の法廷が舞台となったり、刑事弁護人が主人公になったりするドラマが増えてきたが、そこでの冤罪の描かれ方は、あまりに現実離れしたものが多いのが不満だった。

 しかし、『エルピス』は、実際の冤罪事件や再審での審理の実情をかなり調査した上で、丹念にシナリオを作り込んでいることが見て取れた。スリリングな展開に手に汗握らされるエンターテインメントで、久々に最終回まで楽しませてもらった。

 先週末、日弁連の全国再審法改正キャラバンの一環として大阪弁護士会などが主催したシンポジウムに、『エルピス』のプロデューサーである佐野亜裕美氏が登壇し、ドラマ制作の舞台裏を語ってくれた。『エルピス』自体がテレビ局の舞台裏を描いたドラマだから、佐野氏の話は「舞台裏の舞台裏」ということになる。

 まだ放映されるかも未定だった6年前から長澤まさみが主演を快諾し、役作りに意欲を見せていたこと、佐野氏自身は学生時代にカンニング疑惑をかけられたことから冤罪に興味を持つようになったが、お茶の間の視聴者に、冤罪を身近なものとして感じてもらうためにはどう描けばよいか悩んだことなどを紹介した。

 冤罪の描き方について今回はまだ不満であり、次作への宿題にしたい、とも語った。

 また、政治家や官僚といった、権力側の立場の知人たちに感想を求めながらストーリーを作っていったこと、テレビ局の上司からは「視聴率は取れなくてもいいから話題作にしてくれ」と言われていたことまで明かした。

 裏の裏までさらけ出す佐野氏の語りの潔さは心地よい風のようだった。そして気付いた。その潔さが、司法に携わる者には欠けているのではないか、と。

【用語解説】大崎事件

 1979(昭和54)年10 月、鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さん(当時52)と元夫ら3人が逮捕・起訴された。原口さん以外の3人には知的障害があり、起訴内容を認めて懲役1~8年の判決が確定。原口さんは一貫して無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定し、服役した。出所後の95年に再審請求し、第1次請求・第3次請求で計3回、再審開始が認められたものの、検察側が不服を申し立て、福岡高裁宮崎支部(第1次)と最高裁(第3次)で取り消された。2020年3月に第4次再審請求を行い、鹿児島地裁は22年6月に請求を棄却。福岡高裁宮崎支部も23年6月5日、再審を認めない決定を出した。

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