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「文化時報」コラム

㊷6月が来るたびに

2023年8月28日

※文化時報2023年6月9日号の掲載記事です。

 私が弁護団事務局長を務める大崎事件で、この6月5日に第4次再審の即時抗告審(福岡高裁宮崎支部)の決定が出されることになった。原口アヤ子さんは6月15日に96歳の誕生日を迎える。決定はその10日前に出されることになる。

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 私が大崎事件の弁護人になったのは、第1次再審で一度は認められた再審開始決定が取り消された直後の2004年の暮れだった。その後、弁護団事務局長となり、主要メンバーの一人として闘った第2次再審は全敗だった。

 アヤ子さんが88歳となり、「これが最後の闘い」と臨んだ第3次再審請求で、17年6月28日、鹿児島地裁は実に15年ぶりとなる2度目の再審開始決定を出した。裁判所はこの日に決定が出ることを、6月9日の夕方弁護団に告知したのだが、実はこれには裏話がある。

 当初弁護団は3月までに決定が出ると予測していたが、なかなか決定日の通告がないまま6月に入ってしまった。6月はアヤ子さんの誕生月であり、しかもこのときアヤ子さんは卒寿(90歳)を迎える節目の年だった。そこで私たちは6月に入るとすぐ、早期決定を求めるために裁判官に面談を申し入れた。

 冨田敦史裁判長が面談に応じたが、決定時期については「しかるべきときにしかるべき決定を出す」とお茶を濁された。帰り際、冨田裁判長の方から、「アヤ子さんの誕生日のお祝いとか予定されていますか?」と尋ねられた。私たちは「6月10日に弁護団、親族、支援者さんたちとお祝いすることにしています」と答え、裁判所を後にした。

 そして、アヤ子さんの誕生祝いの前日である9日の夕方、決定を28日に出すと裁判所から伝えられたのである。これはもう、「アヤ子さんに再審開始という誕生祝いを持っていけ」という裁判長の粋な計らいとしか思えなかった。そしてそれは現実のものとなった。

 地裁の開始決定に対し、検察官は即時抗告したが、高裁も再審開始を認め、いよいよアヤ子さんに再審無罪のプレゼントができると思っていた19年の6月25日、最高裁は再審開始を取り消し、第3次再審を「強制終了」させてしまった。

 絶望の底から立ち上がって20年3月に申し立てた第4次再審で、昨年の6月22日、鹿児島地裁は再審を認めない決定を出した。アヤ子さんの95歳の誕生日の1週間後だった。

 本コラムの掲載紙が発行されるときには、すでに決定が出ているのだが、96歳となるアヤ子さんに、高裁はどのような決定を用意しているのだろうか。

 この6年間、6月が来るたびに、私の心は大きくかき乱されてきた。しかし、それ以上に期待と絶望を繰り返しているのは、ほかならぬアヤ子さん自身である。

 今度こそ、今度こそ、アヤ子さんに心の平穏を届けたい。

【用語解説】大崎事件

 1979(昭和54)年10 月、鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さん(当時52)と元夫ら3人が逮捕・起訴された。原口さん以外の3人には知的障害があり、起訴内容を認めて懲役1~8年の判決が確定。原口さんは一貫して無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定し、服役した。出所後の95年に再審請求し、第1次請求・第3次請求で計3回、再審開始が認められたものの、検察側が不服を申し立て、福岡高裁宮崎支部(第1次)と最高裁(第3次)で取り消された。2020年3月に第4次再審請求を行い、鹿児島地裁は22年6月に請求を棄却。福岡高裁宮崎支部も23年6月5日、再審を認めない決定を出した。

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