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「文化時報」コラム

㊿「継承」する人々(上)

2023年12月7日

※文化時報2023年10月13日号の掲載記事です。

 植物学者牧野富太郎をモデルにしたNHK朝の連続テレビ小説「らんまん」が最終回を迎えた。江戸末期から明治・大正・昭和という日本の激動期のさなかにあって、ひたすら植物と向き合い続ける主人公と、彼を支える人々の織りなす物語に、朝から心を揺さぶられた視聴者も多かっただろう。

ヒューマニズム宣言サムネイル

 このドラマを通じて伝えられたキーワードは「継承」である。関東大震災で倒壊し、炎に包まれた長屋から、持てるだけの植物標本を抱えて避難する途中、警官からそれを捨てるよう再三警告された主人公が頑として応じず、「これは残すもんじゃ!この先の世に残すもんじゃ!」と叫ぶシーンがあった。一人一人の限りある命の中で得た経験や成果は、次の世代に継承していくことで初めて、人類共通の、永遠の財産とすることができる。このシーンはその営みの尊さを端的に描いていた。

 「らんまん」最終回の翌日、私は福島大学の大教室の教壇に立っていた。1949(昭和24)年8月、この大学にほど近い福島市松川町で発生した「松川事件」で、元被告人全員の無罪が確定して今年で60周年となることを機に全国集会が開催され、記念講演を行ったのである。

 松川事件は、何者かが意図的に線路のレールを外すなどして列車を転覆させ、乗務員3人を死亡させた重大事件だ。捜査機関は、当時大量の人員整理で不満を抱えていた東芝と国鉄の労働組合員らによる共同謀議による犯行との見立ての下、組合員の少年を別件逮捕して自白を搾り取り、これを基に合計20人を逮捕、起訴した。

 一審では全員が有罪(うち5人が死刑)、控訴審では3人が無罪となったが、残る17人については有罪判決が維持された(うち4人が死刑)。

 しかし最高裁での上告審の審理中に、二つの労働組合の共同謀議の場で主導的役割を果たしたとされ、1審、2審ともに死刑判決を受けた被告人に決定的なアリバイがあったことを示す証拠(諏訪メモ)を警察・検察が隠していたことが発覚。最高裁が検察官に提出を命じた上で、審理を高裁に差し戻した。そして事件から14年後、20人全員の無罪が確定した。

 この事件では、無実の被告人たちを救出しようと、「松川運動」と名付けられた活発な支援活動が全国各地で行われ、後の冤罪(えんざい)支援運動の原型となった。集会の会場となった福島大学には松川事件の裁判記録に加え、支援活動に関する膨大な資料が保管されている。

 私を講演に招いてくれたのは、「戦後最大の冤罪事件」と呼ばれる松川事件の歴史を風化させず、次の世代に継承させようと努力する人々だったのだ。=続く

【用語解説】大崎事件

 1979(昭和54)年10 月、鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さん(当時52)と元夫ら3人が逮捕・起訴された。原口さん以外の3人には知的障害があり、起訴内容を認めて懲役1~8年の判決が確定。原口さんは一貫して無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定し、服役した。出所後の95年に再審請求し、第1次請求・第3次請求で計3回、再審開始が認められたものの、検察側が不服を申し立て、福岡高裁宮崎支部(第1次)と最高裁(第3次)で取り消された。2020年3月に第4次再審請求を行い、鹿児島地裁は22年6月に請求を棄却。福岡高裁宮崎支部も23年6月5日、再審を認めない決定を出した。

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