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「文化時報」コラム

〈54〉響け!市民の声

2024年1月27日

※文化時報2023年12月8日号の掲載記事です。

 2023年も残すところあと1カ月を切った。この連載コラムも今年最後の回となった。

 この1年、ほかの話題を書くことができないほど、冤罪(えんざい)と再審法改正の問題に、持てる時間と能力とエネルギーの大部分を費やしてきた。北は北海道から南は沖縄まで、全国47都道府県のほぼ全てで講演を行い、4本の連載コラムを含む多数の原稿やインタビューで法改正を訴えた。頻繁に上京して、国会議員に直接再審法改正を働きかけるさまざまなロビー活動も行った。

ヒューマニズム宣言サムネイル

 もちろん手ごたえもあった。袴田事件の再審開始決定が3月に確定し、死刑事件の再審として36年ぶりとなる再審公判(やり直しの裁判)が10月に始まったこともあり、マスコミの報道も熱を帯びた。単なる事件報道から、法制度そのものの問題点を深掘りする新聞の特集記事やテレビのドキュメンタリー番組なども次々と企画された。

 では、年明けの通常国会に再審法の改正案が上程されるかと言えば、残念ながらその見通しはかなり厳しい。

 日本の刑事訴訟法に倣って再審制度を構築した台湾では、すでに15年と19年の2度にわたり法改正を実現させている。そのスピードが、現在の刑事訴訟法の施行から74年間、再審に関する法改正が1度も実現していない日本と、あまりにも異なる理由はどこにあるのだろうか。

 それはひと言でいえば「権力に対する国民の不断の監視」である。台湾では、国家権力に市民の人権が踏みにじられた歴史を経て、市民が警察や検察、そして裁判所に厳しい目を向け続けている。このため政治家も司法関係者も、率先して制度改革を進めなければ市民の信頼を得られないという危機感を持っている。それが法改正の原動力となっているのだ。

 日本でも、冤罪の恐ろしさと、それを救済する制度の著しい不備を市民が実感し、制度改革に消極的な国会議員は次の選挙で落選するというぐらいの圧倒的な世論の後押しがなければ、法改正は実現しないだろう。

 いつの頃からか、日本では年末のコンサートでベートーベンの交響曲「第9」が演奏されることが恒例となった。この曲はオーケストラの音をかき消すほどの大合唱でフィナーレを迎える。

 日弁連は12月23日に、再審法改正に人生をささげた故・桜井昌司さん(本コラム27回・48回参照)を追悼し、市民とともに再審法改正を考える集会を企画した。

 支援者やジャーナリスト、映画監督など、法律家ではない一般市民として再審を見つめた人々が登壇し、オンライン配信される。全国津々浦々から多数の市民がこの集会に参加し、あの「歓喜の歌」に負けないほどの、再審法改正の実現を訴える大合唱を響かせることができれば、2024年は「運命の年」になるかもしれない。

【用語解説】大崎事件

 1979(昭和54)年10 月、鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さん(当時52)と元夫ら3人が逮捕・起訴された。原口さん以外の3人には知的障害があり、起訴内容を認めて懲役1~8年の判決が確定。原口さんは一貫して無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定し、服役した。出所後の95年に再審請求し、第1次請求・第3次請求で計3回、再審開始が認められたものの、検察側が不服を申し立て、福岡高裁宮崎支部(第1次)と最高裁(第3次)で取り消された。2020年3月に第4次再審請求を行い、鹿児島地裁は22年6月に請求を棄却。福岡高裁宮崎支部も23年6月5日、再審を認めない決定を出した。

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