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「文化時報」コラム

⑤壁を乗り越える

2022年10月4日

 ※文化時報2021年10月7日号の掲載記事です。

 「○罪被害者」の「○」に入る漢字1文字は何か、と問われたら、多くの人が「犯」と答えるだろう。しかし、そこには「冤(えん)」という字も入る。

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 犯罪被害者と冤罪被害者。どちらも、自分には全く落ち度がないのに、ある日突然それまでの平穏で幸せな人生を奪われ、暗くて深い闇の底にたたき落とされる。

 だが、犯罪被害者と冤罪被害者の間には分厚い壁がある。冤罪被害者が無罪を勝ち取ったとき、メディアは必ずといっていいほど、その事件の被害者やその遺族、すなわち「犯罪被害者」を取材し、殺された被害者のご遺族が「これじゃあ死んだ親父が浮かばれない」などと唇をかみ締める姿を報じる。「真犯人なのにうまいことやりおって」と言わんばかりに。

 しかし、真犯人がうまいことやって無罪になれるほど、この国の刑事裁判は甘くない。何しろ99.9%の有罪率である。むしろ、人生の全てを懸け、数十年もの間、無実を訴え続けても無罪になれないのが現実である。それでも犯罪被害者が冤罪被害者を「真犯人では」と思ってしまうのは、初動捜査の段階から被疑者を犯人扱いする捜査機関とマスコミ報道による影響が大きい。

 冤罪被害者の「加害者」は、誤った捜査・裁判で無実の者に濡れ衣を着せた国家権力である。それは同時に、真犯人を取り逃がしているという意味で、実は犯罪被害者への「加害者」でもある。

 再審無罪となった西山美香さんが滋賀県と国を相手取って国家賠償請求を行っている湖東記念病院事件で、滋賀県警は、いまだに西山さんを犯人視する書面を提出し、その後県と県警が謝罪するという出来事があった。この事件は、死に瀕(ひん)していた重篤な患者が病院で亡くなったことを、捜査機関が西山さんによる「殺人事件」にでっち上げた事件だ。それは取りも直さず、大往生を遂げた身内を静かに送るはずだったご遺族を「犯罪被害者」にして苦しめたことを意味する。

 犯罪被害者と冤罪被害者が、壁を乗り越え、苦しみを共有し、手を携えて刑事司法を改革しようという動きがある。彼らの魂の救済に、宗教者の力も必要ではないだろうか。

【用語解説】大崎事件

 1979(昭和54)年10月、鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さん(当時52)と元夫ら3人が逮捕・起訴された。原口さん以外の3人には知的障害があり、起訴内容を認めて懲役1~8年の判決が確定。原口さんは一貫して無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定し、服役した。出所後の95年に再審請求し、第1次請求・第3次請求で計3回、再審開始が認められたものの、検察側が不服を申し立て、福岡高裁宮崎支部(第1次)と最高裁(第3次)で取り消された。2020年3月に第4次再審請求を行い、鹿児島地裁は22年6月に請求を棄却。弁護団は即時抗告し、審理は福岡高裁宮崎支部に移った。

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