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インタビュー

橋渡しインタビュー

4歳の末娘「生きることは奇跡」 小山麻衣さん

2025年8月25日

 愛知県瀬戸市の小山麻衣さん(44)は、4人の息子と1人の娘を育てる母親だ。末娘の愛衣(めい)ちゃん(4)は18トリソミーという染色体異常を持って生まれてきた。心臓や呼吸器にさまざまな疾患を抱えるが、多くの愛情を受けて成長。小さな命の重みを、小山さんは日々感じている。(飯塚まりな)

妊娠中に診断、産声聞かず

 18トリソミーは18番染色体が3本あることで起こる先天性の疾患だ。症状は子どもによって違うが、一般的には発達の遅れや体重の軽さ、先天的な臓器の異常が見られ、呼吸や飲み込みの困難などがある。

画像1 家族全員で。一番右が愛衣ちゃんを抱く小山さん
家族全員で。一番右が愛衣ちゃんを抱く小山さん

 2020年、小山さんは待望の女の子を授かったと喜んだが、妊娠7カ月目の検査でおなかの中の赤ちゃんが18トリソミーと診断を受けた。

 ネットで調べた範囲で、18トリソミーの子どもは短命であること、妊娠中または出生後間もなく亡くなるケースが少なくないことを知った。「無事に生まれてくるのだろうか」。ショックのあまり涙が止まらなかった。

 障害のある子どもの母親たちに相談し、心境を打ち明けた。「障害があっても、赤ちゃんはあなたのお腹の中で生きている」と励まされ、気持ちを持ち直すことができたという。

 21年4月、予定日より1カ月早く、帝王切開で出産。産声を聞かないまま新生児集中治療室(NICU)に入った娘は、医療器具につながれ、すぐに抱くことのできない状況だった。

 当時はコロナ禍で家族との面会もままならず、小山さんは精神的につらい時期を過ごした。その気持ちを救ってくれたのは、看護師たち。涙を流せば背中をさすり、話を聞いてくれ、親身に寄り添ってもらえた。今でもそのときのことを忘れていない。

画像2:笑顔を見せる愛衣ちゃん
笑顔を見せる愛衣ちゃん

 愛衣ちゃんは心臓の異常はさほどなかったが、呼吸の機能が弱かった。生まれて4カ月後、医師から「このままでは退院できない」と言われ、気管切開と胃ろうを勧められた。

 親として抵抗があったが、呼吸が苦しい状態が続く娘の姿を見るのもつらかった。会員制交流サイト(SNS)で同じ障害を持つ子どもの動画や写真を見ると、気管切開をした子どもたちが笑顔で過ごしている様子を知り、「娘と笑顔で暮らせるなら」と覚悟を決めた。

 2回ほど手術を受け、愛衣ちゃんは9月にようやく人工呼吸器をつけて退院した。念願だった家族全員で暮らす夢がかなった。

 だが、小山さんにとって医療的ケアの必要な子どもを育てるのは初めてのこと。「看護師でもない私にできるのだろうか」と不安を感じたが、夫や義母も愛衣ちゃんのためにと、注入器や吸引の仕方などを徹底して学んだ。

 「最初の数カ月が大変だった」という。18トリソミーの子は就寝時間や睡眠時間が不規則になりやすい傾向がある。娘が起きている間、小山さんは必ず起きて様子を見ていなくてはならない。常に寝不足の状態で過ごしていた。

 夜は息子たちの世話や家事。午後9時ごろに夫が帰宅すると育児を交代して1、2時間ほど仮眠する。また起きて、夫の就寝後は娘のそばを離れずに朝を迎える―。そんな日々が数カ月続いたという。

 現在は愛衣ちゃんが寝るタイミングや睡眠リズムを薬で調整し、親子で寝られるようになった。「やってみたらできる」と1年ほどで、ケアへの自信もついた。

画像3 愛衣ちゃんを中心に家族が集まる
愛衣ちゃんを中心に家族が集まる

 一方、4人の息子たちについて話を振ると、「特に四男には、娘が生まれた時には一緒に過ごす時間が短く、十分に甘えさせてあげられなかった」と話していた。

 どの子にとっても、同じ時間は戻ってこない。できるだけ時間を見つけて、息子たちと向き合うよう心がけている。

 今年小学1年になった四男は環境も変わり、多少気持ちに波はあるものの、兄たちと共に妹を思いやっている。

 「娘のおかげで、息子たちも障害や病気を持つ人に優しい大人になっていくと思います。他の子とは違うけど『かわいい、かわいい』と言いながら接してくれています」と、小山さんは笑った。

音楽とミュージカルを支えに

 小山さんは東京都出身。4歳から児童合唱団に入るなど、歌うことが大好きな少女だった。音大の声楽科を卒業し、結婚して夫の住む愛知に越してきた。

 2010(平成22)年、知り合いの子どもが合唱を習いたいと希望したことで合唱団「瀬戸ファミリーシンガーズ」を結成。当時は3人だったが、今では子ども中心のミュージカルも手掛けており、メンバーはスタッフを含めて総勢約70人に上っている。

 毎年、福祉施設でのボランティア演奏やチャリティーコンサートを実施。小山さんは指導と舞台プロデュースに励み、積極的に社会貢献を行っている。

コンサートの様子
コンサートの様子

 週に1度の練習日には、音楽に興味のある長男と三男を連れて稽古に出かける。地域の子どもたちや大人たちに講師として指導する貴重な時間だ。

 その時間、愛衣ちゃんは訪問看護師やヘルパーの支援を受けている。おかげで長年続けてきた活動を諦めずに継続できた。

 「娘が生まれてから、声が出ること、歩けること、口からものを食べられること、その全てが当たり前ではなく奇跡だと知った」と小山さんは語る。

 娘の誕生をきっかけに、ミュージカルは「命」をテーマに取り上げた。音楽の楽しさ、歌う喜びを感じてほしいと始めたことが、今では命の尊さや大切さを表現することに使命を感じている。今年は10月13日に「いのちのコンサート」を開催する予定だ。

生まれてくれてありがとう

 同じ状況の母親たちへ、どんな言葉を届けたいか尋ねた。

 「私は、娘を産んで本当によかったと思います。でも現実は、産まない選択もあり、事情は人それぞれ。ただ、後悔のない選択をしてほしいです。命はどれも大切で、子どもたちから学ぶことは必ずあります」。小山さんは、言葉をかみ締めながら話した。

 「命を絶やさず、できるだけ一日でも長く生きてほしい」。小山家の誰もが、愛衣ちゃんの笑顔を守りたいと強く願っている。

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