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インタビュー

橋渡しインタビュー

自然農法で変わる親子の時間 加藤敬子さん

2025年9月17日

 埼玉県飯能市で今年2月、親子で農業体験ができる自然農法のチーム「ちきゅうっ子ファーム」が設立された。代表の加藤敬子さん(50)=さいたま市北区=は8年前、長男の不登校を機に、進学先を探して飯能市を訪問。自然に魅了され、親子が安心して過ごせる場所をつくりたいと活動するようになった。地域の人に農業を教えてもらい、仲間たちと種まきから収穫まで行うことで、人が持つ本来の活力を目の当たりにしている。(飯塚まりな)

長男の不登校が分岐点

 都心から電車で約1時間。古くから林業で栄え、豊かな森林に囲まれた飯能市は、名栗川や天覧山の軽登山が人気で、毎年多くの観光客が訪れる。

 そんな自然を、加藤さんもこよなく愛している。大宮区の自宅から電車で1時間半かけて通い、多いときは週の半分を飯能市で過ごしている。

 8年前、私立の小学校に通う長男が「学校に行きたくない」と言いだし、不登校になった。原因はいじめ。部屋にひきこもり、時には暴れて反抗するようになった。

 さらに加藤さんが夫と離婚し、3人の子どもたちを連れて家を出たことによって、生活は大きく変わった。

(画像1アイキャッチ兼用)加藤敬子さん
加藤敬子さん

 長男は幼い頃から多動の傾向があり、繊細な性格で小さな音にも敏感だった。「もしかしたら、発達障害なのでは」と病院で検査を受け、親子でできることを行った。

 「息子の場合は発達障害ではないという診断結果が出ました。でも、本人の特性からとても生きづらいだろうと思いました」

 以前から食事には気を使い、有機栽培の野菜や体にいい食材を使って料理してきた。自身も長年ヨガ講師をしながら、心身の健康を保つことに関心が高かった。

 長男の中学進学を控え、「この子に合う学校はないか」と懸命に探したところ、見つけたのが飯能市にある自由の森学園中学・高校だった。生徒の主体性を重視し、独自の教育実践を行っている学校だ。山に囲まれた静かな地域で、地元だけでなく、他の地域からも多くの生徒が進学している。

 以降、親子で何度も学校のある飯能市を訪れた。校内イベントや見学に出かけ、親子で向き合う時間をつくった。すぐには決断できなかったが、高校から同校に進学し、寮生活を送った。

 加藤さんは長男を応援しながら「私もやりたいことをやって生きていく」と、気持ちを切り替えた。

(画像2)コツを教わりながら土を耕す
コツを教わりながら土を耕す

収穫祭で輝いた表情

 加藤さんは、3年後に飯能市へ移住することを目標に、持ち前の社交的な性格で次々とネットワークを広げている。

 6月上旬、「ちきゅうっ子ファーム」は初めての収穫祭を行った。強い日差しの下、掘ったばかりの新鮮なジャガイモを手にする子どもたちの表情が輝いた。

 加藤さんの印象に残ったのは、母親と祖母に連れられた3歳の子だった。出会った当初は土に触れることを怖がり、母親のそばを離れなかった。人見知りが強く、こちらから話しかけても返事がなかなか返ってこなかった。

 だが、回数を重ねる中で変化が見られだした。収穫時には自ら手を伸ばし、夢中になって動き回った。気が付けば、他の子や大人にも寄っていき、楽しそうに過ごしていた。

 その様子を見つめる母親や祖母の表情が優しく、これまで以上に穏やかな空気が流れた。「まるで昔の自分を見ているようだった」と、加藤さんは話す。

 「母親は自分の子だけに気を取られがち。でも、農作業は一人ではできない。土を耕し、種をまき、収穫するところまで皆で一緒に取り組むことに、意義があると思えました」

(画像3)畝を整え、ジャガイモの種イモを植える
畝を整え、ジャガイモの種イモを植える

 また、成人した女性とその母親が、遠方から参加しているケースもある。朝早くに家を出て、電車を乗り継ぎ、欠かさず通ってくるという。

 女性は心に不調を抱えているが、収穫祭では暑さで体力を消耗しながらも「軍手ではなく手で掘ってみたい」と希望し、土の感触を確かめながらジャガイモを掘り進めた。

 他にも、休憩時にコーヒーをいれる子、たき火の番をする子など、それぞれが役割を持って積極的に動いている姿が見られた。どの子たちも、普段の生活ではあまり見られないような、生き生きした表情をしていた。

子どもの可能性を親が信じる

 加藤さんは、生きづらさを抱える子どもを育てる家族に、どのような思いを持っているのだろうか。

 「わが子はお腹の中にいる頃はもちろん、生まれてからも自分のそばにいるのに、周りの基準や診断名で見てしまうことがあります。でも本当は、どんな特性を持っていても、その子自身の能力や役目があると思うんです」

(画像4)仲間たちと笑顔で。前から2列目の一番右が加藤さん
仲間たちと笑顔で。前から2列目の一番右が加藤さん

 長男は大学1年生になり、スポーツ人間学を専攻。加藤さん自身は、元夫と良好な関係を築くことができ、子どもたちも定期的に父親と会って近況を伝え合うようにしているという。

 今後、飯能市での自然農法の取り組みが軌道に乗れば、加藤さんは他の地域でも同様の活動を広めたいと考えている。「周りから、食育を目的とした畑をやってみたいという声があって…。私たちの活動が参考になれば」と話している。

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