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インタビュー

橋渡しインタビュー

「アートで恩を送りたい」 岡安みほさん

2025年12月20日

 東京都江戸川区の岡安みほさん(42)は指定難病=用語解説=のエーラス・ダンロス症候群(EDS)を患っている。2020年には敗血症にかかって余命1カ月と宣告され、生死をさまよった。生きる希望を持ち、少しずつ体力と気力を取り戻してきた現在は、アーティストとして作品の制作・販売に打ち込んでいる。(飯塚まりな)

画像1 個性的なアーティスト、岡安みほさん
個性的なアーティスト、岡安みほさん

 EDSは、皮膚・関節・血管などの結合組織がもろくなる遺伝性疾患。13種類のタイプがあり、岡安さんの場合は関節が異常に伸びてしまう「関節(過可動)型EDS」と診断された。

 診断当時25歳だった岡安さんは「これからやりたいことがいろいろあったのに、とてもショックでした。でも、仕事は続けたいと思っていました」と振り返る。

 物心がついた時から、転びやすい子どもだった。幼児期に病院で検査を受けたが、当時は特に異常が見つからなかった。成長とともに筋肉が付いて安定していくものと期待したが、大人になっても脱臼が多く、転ぶと皮膚がめくれて傷口の出血が止まりくいといった症状が見られた。

 医師に相談すると「EDSではないか」と言われ、検査で病名が確定。患者会に入ったものの、当時は全国に50人程度しかおらず、希少難病といわれていることに衝撃を受けた。

病気になって出会えたアート

 岡安さんは当時、中学校の特別支援学級で介助員の仕事をしており、放課後等デイサービスへの転職が決まっていた。転職先の上司に理解があったことから、「子どもたちの役に立ちたい。体が許す限り頑張りたい」と、懸命に働いたという。

 だが、入職から5年の間に、病状が悪化。関節に装具を着け、週に1度痛み止め注射を打って耐えた。最後の年は歩くときに杖(つえ)が欠かせなくなったが、職場の最寄り駅に着くと杖を隠して、同僚たちに気付かれないように出社した。

画像2 岡安さんの作品。曼荼羅アートと龍を描いている
岡安さんの作品。曼荼羅アートと龍を描いている

 退職を余儀なくされ、精神的に追い詰められた。入院していたとき、母親が持ってきてくれたスケッチブックや塗り絵が救いになった。手を動かして自由に描くことが、生きがいになった。

 その後は少しでも収入を得られるようにと、パステルアートの講師資格を取得。前向きな気持ちを取り戻していった。

敗血症からの回復、生き方が変わる

 だが2020年、胃と食道をつなぐ接合部の筋肉が緩くなり、食事ができなくなった。

 中心静脈栄養で栄養を取るため、皮膚の下に「ポート」と呼ばれる機器を埋め込む手術を受けたが、感染症の発症を繰り返した。ついに敗血症になり、余命1カ月との宣告を受けた。医師からは「今のうちにやりたいことの優先順位を付けて」と言われていた。

 「元気になりたい」と、岡安さんは少しでも食べられるものを口にしようとした。自宅に戻って訪問診療に切り替え、ヘルパーの支援を受けた。運良く医師に処方してもらった薬が合い、寝たきりから徐々に起き上がれるまでに回復した。

 余命宣告を受けてから、生きた証しを残そうと、動画を撮るようになった。「人に遠慮しながら生きてきましたが、初めて『自分の人生を生きよう』と思えました」。思うように体を動かせなくなり、「やりたい」と思ったことは口にするようにした。

 岡安さんには、年の離れた自閉症の兄がいる。子どものころから兄の世話をする両親を見ていたので、できるだけ面倒をかけない子どもでいようと生きてきた。

 中学校ではいじめに遭い、苦しい時期を過ごした。休み時間に特別支援学級へ行き、障害のある子どもたちと会うのがつかの間の安らぎだった。

 兄の存在や障害のある同級生たちと過ごしたことで、将来は福祉の道に進むことを自然と考えるようになったという。

画像3 イルカとの対面も、岡安さんがやりたかったことの一つ
イルカとの対面も、岡安さんがやりたかったことの一つ

 素直に人に気持ちを伝えるようになったある日、偶然ネットで知り合ったアーティストの紹介で、テレビ局の密着取材が入った。「イルカに触れたい」という夢がかなえられ、番組が放送されるとなど、これまでの生活からは想像もできないことが起きた。

「夢輝」として、夢を描く

 現在の岡安さんは「夢輝(ゆめき)」というアーティスト名で活動し、曼荼羅(まんだら)アートやポップなイラストを描いている。

 通所している就労支援継続B型作業所=用語解説=の「アトリエにっと」(東京都江東区)は、アートと福祉を結ぶ観点から、企業に向けて作品のレンタル事業を行っている。岡安さんは展覧会への出展のほか、ワインのラベルのデザインを依頼されるなど活躍の幅を広げている。

画像4アイキャッチ兼用 展覧会の様子
展覧会の様子

 「病気になって大変なことも多かったけれど、いろいろな人に支えられてきました。これからはアートを通して、出会う人たちに恩を贈りたいです」

 余命宣告から早5年。生きる希望を失いかけていた岡安さんは、再び歩き出している。

【用語解説】難病

 発病の機構が明らかでない▽治療方法が確立していない▽希少な疾病▽長期の療養が必要―という四つの要件を満たす疾患。厚生労働省は、難病の中でも、患者数が一定数を超えないことや、客観的な診断基準が成立しているなどの条件を満たす疾患を「指定難病」としており、重症患者には医療費を助成している。2021年11月現在、潰瘍性大腸炎やパーキンソン病など338疾病が指定難病となっている。

【用語解説】就労継続支援B型事業所

 一般企業で働くことが難しい障害者が、軽作業などを通じた就労の機会や訓練を受けられる福祉事業所。障害者総合支援法に基づいている。工賃が支払われるが、雇用契約を結ばないため、最低賃金は適用されない。

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