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インタビュー

橋渡しインタビュー

応援が応援を呼ぶ 大島俊映副住職・睦美さん

2024年6月7日 | 2024年6月8日更新

※文化時報2024年4月12日号の掲載記事です。

 浄土宗全學寺(東京都足立区)の大島俊映副住職(41)と妻の睦美さん(33)は、コーヒーを無料で提供する「ゼンガクジフリーコーヒー」と地域ウェブメディア「トネリライナーノーツ」で地域活性化を図っている。「地域を応援することが応援を呼ぶ。緩くつながっていくことが、経済の停滞を阻止する」。お金の関係を排したフラットな結び付きが僧侶の信用度を高め、結果的には寺院の運営も安定する―と考えている。(山根陽一)

コーヒーが新旧住民のつなぎ役

 《足立区の住宅街にある全學寺。週末になると近隣の老若男女がコーヒーを求めて集まってくる。無料で提供されるのは、選び抜かれた単一の豆を焙煎(ばいせん)した「スペシャルティコーヒー」だ。2017(平成29)年に始め、愛好家だけでなくコーヒーが苦手な人もファンになっている》

(画像①:毎週末に営業するゼンガクジフリーコーヒー)
毎週末に営業するゼンガクジフリーコーヒー

――お寺とコーヒーは珍しい組み合わせですね。

 俊映「地域コミュニティーを作りたかったので、お寺がやっているとは強く打ち出していない。妻がコーヒー焙煎に関わる仕事に長くついており、そのキャリアを生かせる場にもなっている。楽しみながら地域と連携できれば一石二鳥だと思う」

――コーヒーの魅力は。

 睦美「味や香りを楽しんだり、ラテアートを試したりといろいろありますが、一番の魅力は適度な時間を共に過ごす良い契機になること。人と人をつなぐ飲み物と捉えている。誰もが気軽に立ち寄ってくれる場であってほしい」

 俊映「人をつなぐことこそ私たちの望み。お寺の活性化というより地域の活性化が重要だ」

――全學寺の周辺はどのような地域ですか。

 俊映「かつては農地が多かったが、08年に東京都が地域鉄道『日暮里・舎人ライナー』を開業して以来、宅地化が進んでどんどん人が増えてきた。その時に、昔から住む人と引っ越してきた人をつなぐことが必要ではないか、それがお寺本来の役割ではないかと思うようになった」

――そこでコーヒーをつなぎ役にしよう、と。

 俊映「その通り。やって来る人々との交流が生まれ、自然と全學寺というお寺や樹木葬墓地を知ってもらえるようになった。樹木葬をアピールするのでなく、集える場を提供することが、結果的にお寺の安定運営になる」

価値指標を「お金」から転換

 《俊映副住職はさらなる地域活性化を目指し、19年にウェブメディア「トネリライナーノーツ」を創設した。足立区と荒川区の地域情報に特化したメディアで、編集長として活動している》

(画像②:トネリライナーノーツのトップページ)
トネリライナーノーツのトップページ

――ウェブメディアではどんな情報を発信していますか。

 俊映「地域で頑張る人を応援することが目的。食品、アパレル、印刷などあらゆる業種で奮闘する人々の物語を紹介している。地域を横断して、起業家や団体をいろいろな形で支援することが活性化の鍵。応援が応援を呼ぶと考えている」

――お金を通じた関係性ではない、ということでしょうか。

 俊映「少子高齢化社会で経済規模は確実に縮小しており、ローカルでは顕著にその傾向が表れている。お金を価値指標にするとどんどん苦しくなり、気持ちがなえてくる。だから価値指標を『お金』から『応援』に変えることで、前向きな気持ちをつくりたい」

――どんな応援をしていますか。

 俊映「情報を共有することが一番大切だと思う。例えば今、子ども食堂=用語解説=を企画運営する団体と関わっている。目指すのは多世代交流型か貧困支援型かと意見が分かれたとき、足立区は生活保護世帯が多いので貧困支援型が適切、という意見を提供できる。その延長に経済的な支援が可能になる。こうした応援の循環が地域全体を潤すと思う」

プロデューサーの感覚

 《全學寺は檀家が約300軒、樹木葬を合わせて約千基の墓地がある。俊映副住職の父親である俊孝住職(76)は当初、フリーコーヒーには難色を示したが、今では認めているという》

(画像③:足立区の住宅街にある全學寺)
足立区の住宅街にある全學寺

――お寺に嫁いだきっかけを教えてください。

 睦美「アルバイトをしていたカフェの先輩が副住職。交際中はよく一緒にカフェ巡りをして、たわいないおしゃべりをしていた。私の実家が浄土宗来迎寺(静岡県沼津市)の檀家だったという縁もあり、スムーズに結婚できたと思う。でも正直に言うと『お寺の嫁』という意識はあまりなく、自然体で過ごしている」

 俊映「私も僧侶だが、今は地域を楽しくするプロデューサーという感覚で生きている。元々僧侶になりたいというより、やりたい仕事がお寺の本来の役割だったという後付けなので、僧侶はこうあるべきだという自覚はない。でも、無料でおいしいコーヒーが飲める場をつくり、ウェブメディアで僧侶以外の人々とつながったことで、地域の人々が立ち寄りやすいお寺になったことは確かだ」

 睦美「子どもを通じてママ友も来てくれるので、子育ての悩みや家族の話を聞くことで、交流が深まる」

――今後の抱負は。

 俊映「フリーコーヒーは私たちの持ち出しで、それなりに経費がかかる。『無料だから安いものでもいいのでは』と言う人もいるが、おいしいからこそ人が集まる。日本は資本主義を土台に回っているけれど、フリーコーヒーだけは資本主義の外側でやりたい。それがいつか、応援という新しい価値創造につながってほしい」

(画像④アイキャッチ兼用、キャプションは以下で代用:大島さん夫妻)
大島さん夫妻

【用語解説】子ども食堂

子どもが一人で行ける無料または低額の食堂。困窮家庭やひとり親世帯を支援する活動として始まり、居場所づくりや学習支援、地域コミュニティーを形成する取り組みとしても注目される。認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の2023年の調査では、全国に少なくとも9132カ所あり、宗教施設も開設している。

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