2024年8月29日
※文化時報2024年7月12日号の掲載記事です。
お寺を拠点とした大学生によるコミュニティーづくりを支援するTERAFUL(テラフル、京都市中京区)。イベントを通じてお寺や地域の歴史を学ぶ活動に取り組む学生団体「てらふる」を立ち上げた私立学校非常勤講師の川﨑敏矢さん(27)が、活動を全国展開させようと大学4年のときに創業した。「ご縁でご縁を結ぶ」を社是としており、「人々に認知されていない低収入のお寺が、地域と共に次世代へ継承される環境をつくりたい」と話す。(大橋学修)
《テラフルは、イベントを通じてお寺と地域の人々の関係を再構築することを目指している。大阪府茨木市の浄土宗地福寺では、創建したと伝わる藤原鎌足にちなんだ「鎌足まつり」を毎年秋に行うようになり、今年で4年目になる》
――地福寺にはどんな課題があると考えたのですか?
「地域はベッドタウンとなって住民はいるが、お寺のことを知らない人が多い。イベントを通じて、子どもたちが思うふるさとの風景の中心に地福寺を置こうと考えた」
「年1回行う藤原鎌足像の御開帳に合わせて、フリーマーケットやイベント、ワークショップを行っている。最近は別の月に古典音楽演奏会や古本をテーマにしたイベントなども開くようになった」
「これは未来に向けた種まきになるはずだ。地元を離れた人が戻ってくるきっかけの一つには、子どもの頃に楽しんだ経験があると思っている。お寺での交流で得た親近感は、未来には仏事をお願いする動機にもなる」
《テラフルは、活動する学生団体を設立した上で、お寺と学生がイベントを企画・運営する形をとる。現在、京都市と茨木市で立ち上げており、大阪市天王寺区でも準備が進む》
――どのように運営母体をつくるのですか。
「会員制交流サイト(SNS)のダイレクトメールを使って、大阪府内の学生たちへお寺を拠点とした活動に参加するよう呼び掛けた。集まったメンバーで学生団体を設立した」
「大学生でつくる団体は、入学や卒業で新陳代謝が行われる。いつまでも若い人材が運営に携わり、持続可能なイベントになる。地域の魅力を発信し、伝えられる人を増やしていくことにもなる」
《川﨑さんは、子どものころから好きだった歴史の教員になろうと、立命館大学で日本史を専攻。大学4年のときにテラフルを設立したのをきっかけに、経営を学ぼうと大学院へ進学して経営学修士(MBA)を取得した》
――進路が随分と変わりました。
「京都は、教科書にあるものが全てそろう歴史のテーマパーク。そこで学んで教師になろうとしたが、労働環境は過酷で、子細なことを追求する歴史の研究にも、少し嫌気がさしていた」
「自分のやりたいことを追求した結果、学生団体『てらふる』を設立することになった。そして、活動を全国展開する企業を設立しようと考えて、大学4年のときに起業した。経営を学ぶ必要もあったので、大学院に進んで経営学修士(MBA)を取得した」
――学生団体設立の契機は。
「学内でしか活動していないことに気付き、交流を広げようとしていた。イベント会社の社員と話すうちに、自分のやりたいことに気付いた」
「京都、お寺、歴史、教員―と、自分が興味を持つものを掛け合わせると寺子屋になると直観的に思った。それで、あちこちに声を掛けてメンバーを集め、大学3年だった2018(平成30)年10月に学生団体『てらふる』を立ち上げた」
――「てらふる」のコンセプトを教えてください。
「お寺はかつてコミュニティーの中心だったが、今は仏事か観光でしか関わる機会がない。ライトアップは美しいけれども、住職と話せるわけではない。お寺にも本当は伝えたいテーマがあるはずなのに、それが参拝者に届いていない」
「だから、お寺や神社でイベントを行いながら、そのお寺や周辺地域のことを深く知る機会をつくろうと思った。そして、地域の魅力を発信し、伝えられる人を増やすことを目標に活動し始めた」
《学生団体「てらふる」では、臨済宗東福寺派大本山東福寺(京都市東山区)塔頭(たっちゅう)の勝林寺でのワークショップや、浄土宗総本山知恩院(同区)を舞台とした謎解きイベント、浄土真宗本願寺派一念寺(京都市下京区)と連携した新選組の歴史を探るまち歩きなどを行った》
――創業するきっかけとなった出来事があったのですか。
「津市の本願寺派正覚寺の副住職から、『うちのお寺でもやってほしい』と声を掛けられたのが契機。京都から毎回通うのは大変なので、現地で団体を作れば、イベントを持続できると考えた」
「三重県内の大学に通う学生にSNSを使ってメールを送り、誘いに乗ってくれたのが、地域活性化に取り組む学生団体の代表だった。話を聞くと、学外で活動する機会がほぼなく、お寺のような非日常の空間で活動できることに、逆に感謝された」
「お寺も学生も満足しており、今後も活動が続くことを確信した。これをモデルにすれば、全国に活動を広げることができると気が付いた。ただ、僕もいつまでも若くない。お寺と学生を支援する会社を作ることにした」
――収益はどう成り立たせているのですか。
「マネタイズには納得していない。低収入のお寺から資金を提供してもらうしかないのが現状。今は、事務所を置く京町家を『てらはうす』と名付けて、誰もが無料で集える空間とする一方、2階に有料のコワーキングスペースを設けている。また、知人が所有する京町家で宿泊施設を運営している。そういったことで運営経費を得ており、なんとなく安定した状態になっている」
「ただ、創業の目的は、地域の人がお寺を拠点に盛り上がり、その結果、お寺に収益が集まる仕組みをつくること。だからこそ、活動を広げなければならない。社会事業に価値が見いだされて、お金が回るような方法を考えたい」