2024年11月17日
東京都港区の日本ユニセフ協会にある展示スペース「ユニセフハウス」が2022年10月にリニューアルオープンした。世界の子どもたちの現状を見聞きし、戦争や貧困の中でどんな生活をしているのか、国連児童基金(ユニセフ)の活動を通して知ることができる。ボランティアスタッフの解説を聞きながら、見学させてもらった。(飯塚まりな)
ユニセフは1946年にできた国連機関。世界の子どもたちの命と権利を守るために活動している。
国籍、宗教、民族、政治に関係なく、困難な状況にいる子どもたちに支援の手を差し伸べ、予防接種や栄養治療食、汚れた水をろ過する浄水剤などを、世界各国から集めた募金で提供している。活動範囲は世界の約190カ国・地域に及ぶ。
ユニセフ協会(国内委員会)は33カ国・地域に置かれた民間組織であり、日本では55年に設立された。
ユニセフハウスは、世界の子どもたちの生き方を学べる体験型施設となっている。1階と2階に三つのゾーンがあり、展示物にはたくさんの仕掛けがある。見学者が自らの気付きや発見を通して、世界に思いを寄せられるよう工夫されている。
ゾーン1では「ユニセフハウスへ、ようこそ!」と題されたパネルが目に飛び込む。子どもなら思わず駆け寄りたくなるデジタルスクリーンは、あえて空間を広く取って設置。全体を見渡しながらのんびり過ごせるようになっている。
ボランティアスタッフは「世界の人口は81億人以上ですが、人は誰しもお母さんのお腹から産まれて、ミルクを飲んで成長しますよね。生まれる、食べる、遊んで学ぶことは、どの国の子どもも同じです」と語った。
生まれた国や環境によって多少の違いはあっても、人間として成長する上で大事なことは同じだと明るく伝えている。自分との共通点を知るところからスタートし、遊びの延長で楽しく学べる仕組みにワクワクする子どもは多いだろう。
2階にあるゾーン2へ階段を上がった途端、雰囲気が一気に重々しくなった。照明を落とした部屋に、7人の子どものパネルが並ぶ。ゾーン1での楽しかった雰囲気から一変し、同じ人間の生活環境とは思えない過酷な現状に生きる子どもたちと向き合う。
ボランティアスタッフが、家族のために水を運んで学校に行けない13歳のアイシャさんについて説明した。1日8時間以上、ラクダと共に濁った川の水を運び、何キロも歩く少女に笑顔はない。
パネルの下には、実物の水がめが用意されていた。水を運ぶ子どもの気持ちになって、水がめを持ち上げる体験をするためだ。持ってみると想像以上に重く、大人でもすぐ音を上げそうになる。到底子どもが持つ重さではなかった。
爆撃を受けた教室をイメージした部屋では、シリアの女の子、サジャさんが義足で学校に行く姿が映っていた。紛争で崩れた建物の間を黙々と歩き、片足で器用にサッカーボールを蹴って遊ぶ様子や、勉強中に見せる笑顔が何とも痛々しい。
「私はどんなに大変でも学校に行きたい」と話すサジャさん。ふと、日本の不登校問題を思い出す。命の危機にさらされても学校に通うことが希望だと言う少女と、「嫌なら無理して学校に行かなくてもいい」といった風潮にある日本の子どもたち。全く対照的な世界を生きていることが、不思議だった。
7人の子どもたちの動画は、ただ映像が流れるだけでなく、動画の目の前に置かれているレプリカを持ち上げると物語が始まる仕組みのものもある。「ジェームスの物語」は誘拐され、兵士にさせられた少年がユニセフに助けられ、母親と再会するまでのアニメを鑑賞できる。銃のレプリカを手にすると、ゴトッと音がして、その重みに恐怖を感じた。
実際に兵士になった子どもたちは、たとえ運良く助かって家族の元へ帰れたとしても、精神障害を抱えるなどして社会復帰が難しいケースが後を絶たないという。
ボランティアスタッフと共に、1階へ戻った。最後のゾーン3ではユニセフの歩みを振り返りつつ、持続可能な開発目標(SDGs)の観点を兼ね、「子どもの権利条約」について、条文に合わせて40枚のカードを使って紹介している。
1989年に採択された子どもの権利条約には、基本的な考え方として四つの原則がある。差別の禁止(差別のないこと)、子どもの最善の利益(子どもにとって最もよいこと)、生命、生存及び発達に対する権利(命を守られ成長できること)、子どもの意見の尊重(子どもが意味のある参加ができること)だ。
カードにある条文を読むと、ゾーン2で見た子どもたちには当てはまらないものがいくつもあり、権利が認められず子どもが弱い立場に置かれている国や地域がどれだけ多いかを実感する。
最後に、ボランティアガイドがうっかり見過ごしてしまいそうな空間を紹介してくれた。
そこには、英語で書かれた古い大きな缶があり、壁には白黒写真で、戦後の子どもたちの学校給食の様子が写っていた。
第2次世界大戦後、日本の食糧危機は子どもたちの成長に影を落とした。ユニセフが学校給食に脱脂粉乳の缶を緊急支援し、全国の子どもたちの健康を支えたといわれている。
広報主任の方は「ボランティアスタッフの中にも、『子どもの時にユニセフに助けられたから恩返しをしたい』と言って活躍してくださる方がたくさんいます」と話していた。
2011年の東日本大震災の時にも、ユニセフは大勢の子どもたちに支援物資を届けた。日本は寄付や募金で支援する側にいるだけでなく、支援される側にもいるのだ。
ユニセフハウスは入場無料。できれば、ボランティアスタッフの解説を聞きながらじっくり見学してほしい。子どもたちのメッセージの端々に、悲しみと希望が入り混じっている。
同じ人間同士で、なぜここまで暮らしが違うのか―。自分の生き方を見つめる絶好の機会になるだろう。