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〈文化時報社説〉もう死者を出すな

2025年5月21日

※文化時報2025年2月14日号の掲載記事です。

 会員制交流サイト(SNS)やネットニュースの書き込みによる誹謗(ひぼう)中傷でこれ以上死者を出すことは、絶対に避けねばならない。

社説

 斎藤元彦兵庫県知事のパワーハラスメントなどの疑惑について調べる県議会調査特別委員会(百条委員会)の委員を務めた元県議が亡くなった。斎藤知事が当選した昨年11月の出直し選挙の翌日、「家族を守るため」として議員を辞職していた。誹謗中傷に悩んでいたといい、自殺とみられている。

 問題視されているのが、出直し知事選に立候補した政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏による発言だ。立花氏は元県議の死亡が報じられた1月19日、元県議が兵庫県警から任意の取り調べを受けていて逮捕される予定だったとする動画を投稿した。これに対し県警本部長は翌20日、「全くの事実無根」「明白な虚偽がSNSで拡散されていることは極めて遺憾」と否定した。個別の捜査に関する異例の言及が事態の深刻さを物語っている。

 立花氏は当該の動画を削除し謝罪を表明したが、県警に裏取り取材していれば事実と異なることがすぐに分かったはずである。NHKでの勤務経験やフリージャーナリストを名乗って活動した経歴がある以上、ずさんすぎる対応だったと言わざるを得ない。

 全責任が、立花氏一人に帰結するわけではない。事実を確認せず、立花氏の主張に沿った情報を拡散した匿名のユーザーたちも批判は免れない。さらには人を死に追い込み、死してなお鞭(むち)打つことを認めるような言論空間そのものを早急に改善しなければならない。

 斎藤知事の疑惑を巡っては、内部告発した元県民局長が昨年7月に死亡し、経費支出の不正が取りざたされるプロ野球の優勝パレードに関わった当時の担当課長も亡くなった。いずれも自殺とみられている。

 死者が3人に上るという異常事態となったにもかかわらず、当の斎藤知事は記者会見などで立花氏の投稿に関する論評を避けている。SNSを通じた真偽不明の情報発信や誹謗中傷をしないよう呼び掛けてはいるものの、自身の当選を援護射撃する形となった立花氏に対し、毅然(きぜん)とした態度を取るべきではないか。

 人命が失われ、死者への冒瀆(ぼうとく)が繰り返されているという事の重大性に鑑みると、宗教界からも提言や情報発信を行う時期が来ているのかもしれない。

 宗教には他者を尊重し、心を冷静に保つ知見がある。寛容と思いやりに満ちた言論空間を形成するとともに、SNSにとらわれない生き方を提唱することもできるはずだ。これらを惜しみなく社会に伝えてほしい。

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