2025年6月10日 | 2025年6月14日更新
※文化時報2025年1月14日号の掲載記事です。
大手冠婚葬祭互助会の株式会社くらしの友(東京都大田区)は、亡くなった大切な人への思いを「手紙」として記すことで、悲しみを乗り越えるきっかけになればとの意図から、「つたえたい、心の手紙」コンテストを2008(平成20)年から行っている。手紙を書く人だけでなく、読む人にも大きな共感や感動を与えることから毎年恒例となっており、24年で17回目を数えた。
西脇浩樹広報企画課長によると、同社がこのコンテストを始めたきっかけはこうだ。
ある葬儀の際、亡くなった祖父に宛てた手紙をお孫さんが読み上げ、棺(ひつぎ)の中に入れて荼毘(だび)に付した。その手紙の内容が参列者の感動を呼んだ。
亡くなった大切な人に、生前伝えられなかった感謝や後悔などの気持ちは、遺族の多くが持っている。手紙という形にして公開すれば、より多くの人たちの癒やしやグリーフ(悲嘆)ケアとなり、前向きな気持ちになる助けになるのではないか―。そう考えて始めたのだという。
コンテストでは、亡くなった大切な人に向けて、生前伝えられなかった思いを800文字程度で手紙につづってもらう。金賞10万円1人、銀賞5万円5人、佳作3万円5人、入賞1万円13人で、計24人が受賞する。
手紙の募集方法は、ニュースリリースをマスコミに送って取り上げてもらうほか、コロナ禍前までは首都圏の複数の幹線電車内に広告を打ってきた。
そうしたところ、応募数は2回目に千通を超え、以降は毎年千~1300通の応募が続いてきた。
審査は厳正だ。まず社内の担当者約10人が全応募作品を読み、100通くらいに絞る。次いで同社の互助会員6人程度に読んでもらい、50通に絞る。そして、小説家やジャーナリストなど有識者7人からなる審査委員会で入賞作品を決定する。
募集期間に半年、入賞作品の審査・選定にも半年かけている。そこまで入念に行っているのは「応募された方の人生における大切な一部分を共有させてもらっていると思っているので、応募された方と手紙の内容に対し、誠実に向き合う責任があると考えている」と西脇課長は述べる。
入賞作品はコンテスト専用サイトに掲載するほか、冊子にして配布。応募者全員はもちろん、同社の葬祭ホールに置いて自由に持ち帰ってもらったり、イベントなどを通じて配布したりしている。配布数はコンテスト1回当たり1万冊くらいに上るという。
コンテストは、大切な人を亡くした人たちのグリーフケアになっているだけではなく、手紙を読んだ一般の人からも「今ある大切な人たちと過ごす時間の大切さや、喜びを感じた」といった声が寄せられている。
また、同社の認知度やブランド力の向上にも非常に役立っているそうだ。
同社では、互助会員向け会報誌を年4回発行しており、毎号入賞した1作品を掲載。発行後、どの記事が良かったかアンケートを行うと、約20本ある記事の中で入賞作品が常に3位以内に入っている。
「葬儀の広告は、必要のある人でないとなかなか見てもらえないが、この調査で分かるように、手紙作品は葬儀に関係なく読んでもらえる。当社のことを知ってもらうきっかけになっている」
また、作品を読んだ多くの人が共感、感動していることから、「こういうコンテストを実施している所は、葬儀もきちんと行っているのだろうと思ってもらえる」というのだ。
今後について、西脇課長は「人件費をはじめコストはかかるけれども、社会から必要とされ、弊社の大きな財産にもなっていることなので、今後も長く続けていきたい」と話している。
今回の取材相手は… 西脇浩樹さん
株式会社くらしの友 広報企画部広報企画課・課長。2014(平成26)年に入社し、広告宣伝・広報を担当。前職は広告代理店のクリエイティブ局に在籍していた。
葬儀業界では、同様のコンテストは他にも複数あるが、筆者がくらしの友の「つたえたい、心の手紙」コンテストを取り上げた理由は二つある。
一つは、くらしの友のコンテストが最初に始まり、開催年数も長いこと。もう一つは、応募された手紙を審査終了後、お寺で丁重に供養していることだ。
日本近代郵便の父として知られる前島密(1835~1919)夫婦の墓所がある浄土宗浄楽寺(神奈川県横須賀市)で、供養したのちにお焚(た)き上げしている。
その意図は「手紙を供養することによって、込められた思いが大切な方へ届くことを切に願い、それが故人を供養することにもなると考えてのこと」と、西脇課長は説明する。
それならば「供養最前線」という連載テーマに余計にふさわしいと思った次第である。