2025年11月9日
※文化時報2025年9月12日号の掲載記事です。
真宗大谷派正安(しょうあん)寺(茨城県ひたちなか市)が母体となったNPO法人「ただいま」が、境内に新たな施設「ただいまてらす」を建てた。同法人が運営するフリースクール、子ども食堂、子育てカフェなどの利用者が増えており、多目的施設として利用する。都心への通勤が可能な同市の子育て世帯と地元住民の交流を充実させる場として、行政も注目。代表理事の増田直住職は「一人一人が支え、支えられる施設。みんなで使い方を考えていきたい」と語る。(山根陽一)

ただいまてらすは約3年前に計画され、今年1月末に着工。8月24日に開設式が行われ、大谷明ひたちなか市長や法人スタッフ、門徒ら約50人が完成を祝った。
施設は敷地面積約100平方メートルの2階建て木造建築。1階は大部屋やキッチン、受付があり、大きな天窓から日差しが入る。吹き抜けの広々とした階段を上がった2階に、最も広い多目的スペースを設置。大きな窓から本堂を見渡せる。複数のトイレやシャワールームも完備している。

設計を担当した建築家の稻用(いなもち)隆一茨城大学講師は「各空間が閉鎖されないぐらいの程よい距離感を保った」と話す。内装は森に囲まれた境内にふさわしく木目調が中心で、地元産のスギやヒノキを使用しているという。
当面は1階でフリースクール「ふらっと」、2階で子育て支援センター「なないろカフェ」、夕方から放課後小学生の居場所「てらこや」を開く予定だが、集まる人数などによって臨機応変に使い分ける。
大谷市長は開設式のあいさつで「一人が好きな人も一人では生きられない。誰もが気軽に『ただいま』『おかえり』と言える心地いい場になってほしい。市としてもサポートしていく」と述べた。

正安寺が社会活動を始めたきっかけは、2011(平成23)年の東京電力福島第一原子力発電所事故だった。
ひたちなか市に隣接する茨城県東海村には日本原電の原発があり、多くの住民が不安に陥った。母親たちは自然と寺に集まり、悩みや情報を共有し始めたという。
その後、15年の「子育てママカフェ」を皮切りに次々と支援を展開し、22年2月にNPO法人を設立した。現在は「ふらっと」「なないろカフェ」「てらこや」のほか、通信制高校生の居場所「ふらっとプラス」、地域食堂「ただいましょくどう」、フードパントリー「TeToTe」(てとて)の全6事業を行っている。

活動拠点はこれまで使ってきた本堂隣の正安寺会館との2カ所体制となる。増田住職と共同で法人代表理事を務める坊守の増田真紀子さんは「お寺は元々人が集まる場所で、正安寺も高齢者から乳幼児まで出入りが頻繁。そんな多世代の交流を生かしながら、子どもたちが自然にいられる場所であってほしい。新拠点があれば、高齢者も気兼ねなくお寺に来られるし、法要も余裕をもって営める」と話した。
NPO法人「ただいま」は多岐にわたる活動が評価され、「いばらきチャレンジアワード支え合い2024」で最優秀の県知事賞を受賞した。この賞は非営利の社会貢献活動を活性化する目的で、県庁に事務局を置く「チャレンジいばらき県民運動」が、地域の困り事解決や社会貢献における優秀なプランを表彰している。
2019年には近隣の小学5、6年生を対象にした学童保育を市から請け負い、24年にはひとり親世帯支援が評価されてこども家庭庁からも補助金を得た。「ただいまてらす」の建設でも県の補助金を活用しており、行政から信頼と協力を得ている。
地域貢献と次世代の育成を旗印に、寺院が本来果たしてきた役割を、正安寺は社会の実情に合わせて果たしているといえる。増田直住職は「自分を認めてもらえる空間を作ることが重要。人は役に立つとか役に立たないとかに関係なく、存在自体に価値があることを伝えたい」と話している。
