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⑥61年ぶりの救護施設 住職によるNPO(下)

2023年1月8日

※文化時報2022年7月12日号の掲載記事です。

 身寄りのない人や生活困窮者らの葬儀・埋葬を行うNPO法人三松会(群馬県館林市)の塚田一晃理事長は、2016(平成28)年9月に社会福祉法人三松会を設立し、18年に救護施設「フルーツガーデン」(栃木県佐野市、定員60人)を開設した。救護施設は、生活保護法に基づく施設で「最後のセーフティーネット」と呼ばれ、経済的な事情や障害などの理由で自立した生活が困難な人たちが暮らす所。全国に約180カ所しかなく、栃木県では61年ぶり2カ所目の施設となったという。曹洞宗源清寺住職でもある塚田理事長に尋ねた。

救護施設「フルーツガーデン」の外観
救護施設「フルーツガーデン」の外観

行く先のない人たち

――施設を開設した理由は。

 「三松会では、葬儀、埋葬、孤独死予防、成年後見、身元引受などに取り組んできました。その中で、親族と疎遠だったり、貧困、障害など複数の条件が重なってどこにも行く先がなかったりする人たちを、たくさん見てきました。そうした人たちの受け皿をつくらなければいけないと、ずっと感じていました」

――どこにも行く先がないというのは、どのような人たちですか。

 「例えば、近郊には車上生活の人たちが結構います。この辺りは、夏場はすごく暑くなり、その人たちが熱中症で倒れたとします。救急車で病院に運ばれ入院し、点滴などの治療を受けて回復したとします」

 「普通はそれで退院となりますが、車上生活者を退院させると、また車に戻ってしまいます。また、親族に連絡しても引き取りを拒否され、病院は退院させられなくて困ってしまいます。そうなると、受け皿は救護施設しかないのです」

認可までに12年

――栃木県で新設されたのは61年ぶりです。新設は非常に難しいからだと思うのですが、よく認可されましたね。

 「救護施設の必要性は、国も理解していますが、入所するのは生活保護受給者ですから、100%税金で運営することになります。財政状況が厳しいので、国はつくりたがりません」

 

天井が高く、採光によって明るい食堂
天井が高く、採光によって明るい食堂

 「しかし、私は必要性を痛感しており、粘り強く訴えてきました。4年ほど頑張って、一度は諦めたのですが、さらに4年ほど後に尋ねたら、昔の申請はまだ生きているというので、もう一度、『つくりたい』と強く訴え始めました。それから4年後にようやく認可されました。都合12年かかった計算です」

――ものすごい粘り強さですね。どうして認められたとお考えですか。

 「厚生労働省が別の事業計画で組んでいた予算が余ったので、補助金としてこれくらいなら出してもいいと言ってきました。必要な資金からすると少ないですが、国の補助事業になると、銀行も融資してくれますので、すぐ受けました。運が良かったと思っています」

 「救護施設は、以前からお寺がつくるべきものだと思っていました。借金は頑張れば返せるはず。つくらないと一生後悔すると思いました」

誰でも受け入れる

――そのほか、開設するまでにどのような困難がありましたか。

 「住民に納得してもらうことです。救護施設の認知度はとても低いため、『刑務所から出てくる人たちの施設』といった誤解や偏見があり、反対する人が多いのです。現在の場所を確保する前に、建設予定地が2カ所あったのですが、住民の反対に遭いました」

 「そこで、私の兼務寺がある栃木県佐野市につくることにしました。道路もないような場所でしたので、建設費は余計にかかりましたし、それでも住民の反対がありましたが、檀家総代をはじめ知っている人がたくさんいる地域なので、協力を得られました」

――フルーツガーデンの特徴はありますか。

 「あえて特徴を打ち出さず、市役所から依頼される人は基本的に誰でも受け入れています。ただ、女性も夜勤をしていますので、性犯罪歴のある人だけは断っています。また、一度にたくさん受け入れると職員が対応できないので、新たに来てもらうのは月3~4人が限界です。新型コロナウイルスもありましたし、定員が埋まるまで3年ほどかかりました」

居室は4人部屋だが、大型の仕切り棚を設け、プライベート空間を確保している
居室は4人部屋だが、大型の仕切り棚を設け、プライベート空間を確保している

――60人の内訳は。

 「障害のある人が55人おり、そのうち精神障害が41人と最も多く、身体障害11人、知的障害3人となっています。最近増えているのは、ニートで親の年金で暮らしていたのが、親が亡くなって年金が止まり、生活できなくなって急遽(きゅうきょ)入所するケースです」

自立支援にも注力

――入所した人たちに変化は見られますか。

 「劣悪な環境で暮らしていた人たちが多いですから、入所してから、明るくなったり、ありがとうとお礼を伝えてくれたりするようになります。盗みなどの軽犯罪で服役していた人も、刑務所に入るよりここにいた方が良いので更生します。また、入所者同士も、レクリエーション活動などを通じて仲が深まっています」

 「ただ、救護施設は基本的に〝通過施設〟なので、最終的には施設を出て自立した生活をしてもらわなければなりません。このため、自立支援にも力を入れています」

――どのようなことをされているのですか。

 「救護施設の近くに、自立支援の訓練施設をつくり、今年4月から運営しています。生活保護費が出ますから、自分でご飯を作って食べられるように、1年間訓練します。自分で生活できるようになったら、アパートに移ってもらいます」

施設内で開催している「秋祭り」のイベントで、入居者と記念撮影する塚田理事長(三松会提供)
施設内で開催している「秋祭り」のイベントで、入居者と記念撮影する塚田理事長(三松会提供)

――今後の計画は。

 「入所している人の平均年齢は63歳ぐらいですが、今後、高年齢化していくことも考えなければなりません。救護施設は終身ではいられませんし、介護保険は使えません。そこで、介護が必要になったり認知症になったりする場合に備えて、グループホームをつくりたいと考えています」

塚田一晃(つかだ・いっこう)

曹洞宗源清寺(群馬県館林市)住職。NPО法人三松会理事長。社会福祉法人三松会理事長。1966 年、東京都杉並区生まれ。90 年、源清寺に副住職として入寺。95 年、福祉専門の葬儀社・有限会社三松会設立。2001 年、三松会をNPО法人化。06 年、孤独死予防センター設立、後見人活動開始。10 年、フードバンク北関東設立。16 年、社会福祉法人三松会設立。18 年、救護施設「フルーツガーデン」(栃木県佐野市)設立。

塚本優が聞いた「宗教者への要望」はもれびクリニック

 「塚本優と考える お寺のポテンシャル」では、福祉業界や葬祭業界を長年にわたって取材する終活・葬送ジャーナリストの塚本優氏が、お寺の可能性に期待する業界の先進的な取り組みを紹介します。

 

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