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文化庁、5月15日に京都移転 福祉とも連携

2023年1月5日

※文化時報2023年1月1日号の掲載記事です。

 宗教行政や文化財保護を担う文化庁が5月15日、宗教都市・京都に本格移転する。改修を進めていた旧京都府警本部本館と隣接地に新築した新庁舎では、3月27日から業務が始まる。移転はこれまで文化庁が扱わなかった福祉や教育などと連携し、地方創生を図るのが狙いだ。地元京都からは、地域文化の継承を支援する新たな施策に期待が高まる。

文化庁が移転する旧京都府警本部本館(左)と新築された庁舎=京都市上京区
文化庁が移転する旧京都府警本部本館(左)と新築された庁舎=京都市上京区

地域文化継承へ新施策

 移転に向けては、2017(平成29)年4月に「文化庁地域文化創生本部」(京都市東山区)が設置され、準備を進めてきた。京都府、京都市や京都商工会議所などから人材を集め、地域文化や地元経済界の知見を生かしている。

 福祉分野では、厚生労働省と連携し、障害者の芸術活動を推進。12月3~9日の障害者週間に合わせて20(令和2)年から毎年、国立京都近代美術館で、共生社会や障害について考えるプロジェクト「CONNECT ⇆ _ 」(コネクト)を開催し、展示やワークショップを行っている。

 教育分野では、京都市が22年8月、律宗大本山壬生寺(京都市中京区)で行った親子体験教室「集まれ!親子で地蔵盆」を支援した。参加者らは松浦俊昭貫主の法話を聞き、数珠回しや奉納提灯(ちょうちん)の制作も体験した。

 京都府文化財保護課は、文化庁職員が東京都内では目にすることがなかった過疎地域の現状に関心を持ってもらえると期待する。少子高齢化や人口減少に伴い、文化が消滅の危機にひんしているためだ。担当者は「文化財そのものを保存するだけでなく、文化財を守る地域を振興させる事業ができれば」と期待する。

文化財保護でもメリット

 文化財保護においても、文化庁の京都移転にはメリットがある。

 22年6月現在のデータでは、京都府の国重要文化財は3032件と東京都に次いで2番目に多く、建造物に限ると299件で全国最多。また、国宝建造物の約6割は、京都府、滋賀県、奈良県に立地している。

 京都府文化財保護課の担当者は「京都府が抱える文化財の課題が解決すれば、全国に通用する」と語る。

 ただ、課題の共有が進んだとしても、実際に政策立案につながるかは不透明。京都に移転するのは文化庁全体の7割にとどまり、国会対応や各省庁との調整を担う部門に加え、基本政策の立案を行う企画調整課は東京・霞が関に残る。

宗教・文化 どう切り分け 旧統一教会と政教分離が壁

 宗教都市・京都への文化庁移転には、地方創生や地域文化の継承にとどまらず、宗教政策の推進が期待される。だが、担当の宗務課は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への対応があり、当初予定されていた移転がどうなるかは見通せない。また、信仰や宗教思想に関わる分野への支援には、政教分離の原則=用語解説=などの壁が立ちはだかる。宗教と文化をどのように切り分けられるのかという課題が顕在化しつつある。

「平成の大改修」が進む比叡山延暦寺根本中堂の回廊屋根
「平成の大改修」が進む比叡山延暦寺根本中堂の回廊屋根

 天台宗総本山比叡山延暦寺(大津市)の国宝根本中堂で2016(平成28)年から10年計画で行われている「平成の大改修」。文化庁が滋賀県に委託する形で進められており、解体しながら調査を実施し、修理箇所ごとに行政と延暦寺で方法を協議している。

 このうち内陣の塗装修理を巡っては、欄間彫刻の彩色の方針について、行政と延暦寺で意見の隔たりが目立っている。

 行政側は、当時行われた彩色の技法が現代の技術では解明できないとして、未来に開発される技術に委ねたい考え。そのため彩色による修理を行わず、現状保存が適切と主張する。

 一方、延暦寺は、華やかな堂内が整備されたのは、参拝者に宗教的な体験をもたらすためだったと強調。色が劣化したまま保存することは、信仰の場である堂宇にふさわしくないと判断し、建造当時の色合いに戻すよう訴える。

 文化財として保存が必要な建造物と位置付けるか、思想や信仰を具現化した宗教そのものと捉えるか。こうした例は、枚挙にいとまがない。

文化財保護は「特例」

 指定文化財の多くは、寺院や神社が所有するケースが多いが、宗教法人に対して国や地方公共団体が何らかの経費を支出することは、憲法20条と89条=用語解説=で禁じられている。

 それでも文化財の修理などに補助金が交付されるのは、文化財が国民の共有財産と見なされ、「特例」として国庫からの支出が認められているためだ。

 文化財保護でたびたび課題となるのが、神輿(みこし)の修理。神輿を担ぐ行為は宗教行事そのものと判断されており、たとえ無形文化財に指定されている祭りで用いられていても、神輿本体が文化財に指定されていない限りは、修理への補助金支出はできない。

 京都市が22年8月に律宗大本山壬生寺(松浦俊昭貫主、京都市中京区)で行った地蔵盆の体験は仏教行事だが、14年11月に「京の地蔵盆」として市の無形文化遺産に指定されていたため、文化庁の経費負担が可能になった。

無償提供に違憲判決

 一方、宗教は文化そのものだという考え方もある。宗教法人に対する税制優遇措置=用語解説=は、宗教が社会にとって公益的な存在として位置付けられているという側面もある。

 子どもの貧困支援や、悩みを持つ人の分かち合いの場を開くなど、社会に貢献する活動に取り組むお寺や教会は増え始めている。

 しかし、行政関係者によると、文化と福祉の連携という文化庁の新たな施策で宗教法人を直接支援の対象とすることは、困難とみられる。たとえ宗教が文化であり、活動に公益性があったとしても、現状では国庫からの支出が憲法違反と判断される可能性は高いというのだ。

 21年2月には、儒教の祖・孔子をまつる久米至聖廟(くめしせいびょう)の敷地を那覇市が無償提供したのは政教分離の原則に反するかどうかが争われた住民訴訟で、最高裁は違憲とする判決を出した。文化財であることを理由とした無償提供はできないという判断だった。

 大谷栄一・佛教大学教授(宗教社会学)は、文化財保護のための補助金が「特例」を除いて宗教法人に出せない仕組みになっているのは、宗教と文化の線引きが明確にできていないためだと指摘。「宗教者や行政関係者、民俗学者などの有識者で、政教分離の枠組み自体を再検討する必要があるのではないか」と話した。

文化庁の京都移転

 2014(平成26)年に成立した「まち・ひと・しごと創生法」に基づく政府関係機関の地方移転の一環で、京都府などからの提案を受けて計画された。16年3月に「政府関係機関移転基本方針」がまとまり、7省庁と23機関の移転が決定。消費者庁や観光庁など6省庁は拠点の整備などにとどまったが、文化庁は京都に本格移転することになった。

政教分離の原則

 国家の政治と宗教を分離させる原則。政治と宗教が互いに介入することを禁じる。日本国憲法では信教の自由を定めた20条と、宗教団体への公金支出を禁じた89条で規定される。

憲法20条と89条

 日本国憲法20条1項は「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」と示し、同条3項で「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と定めている。憲法89条では「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」と定めている。

宗教法人に対する税制優遇措置

 法人税法7条で、収益事業以外の所得については法人税を課さないと規定。地方税法348条2項3号では、境内建物などに対する固定資産税を非課税とする措置などが示されている。収益事業に対しては、法人税法66条3項で、19%の法人税率を適用することを定めている。

 

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