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〈文化時報社説〉地域共生社会の留意点

2024年4月24日

※文化時報2024年3月8号の掲載記事です。

 全国にある子ども食堂=用語解説=の数が2023年度は9132カ所(前年度比1769カ所増)に上り、公立中学校数(9296校、義務教育学校を含む)とほぼ並んだ。認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(理事長、湯浅誠・東京大学特任教授)が調査結果を公表した。むすびえは「いよいよ社会のインフラになる」とみており、お寺や教会にとっては心強い傾向といえる。

社説・地域共生社会

 急増した背景には、子どもの貧困対策や居場所づくりといったニーズがあることや、民間のボランティア活動として始めやすいことなどが挙げられる。食事を介した多世代交流や学習支援など、さまざまな大人たちが特技を生かして地域貢献できることもあるだろう。

 行政も注目しており、厚生労働省は2018(平成30)年6月28日付の通知で次のように記している。

 「子ども食堂は、子どもの食育や居場所づくりにとどまらず、それを契機として、高齢者や障害者を含む地域住民の交流拠点に発展する可能性があり、地域共生社会の実現に向けて大きな役割を果たすことが期待される」

 地域共生社会は、16年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」 に盛り込まれた概念だ。制度・分野ごとの縦割りや「支え手」「受け手」の関係を超え、住民一人一人がつながり、地域を共につくることを目指している。

 だが、多くの子ども食堂が目的とするのは子どもへの支援であり、さまざまな大人が関わった結果として、たまたま共生が成立していると見た方がいい。最初から共生を目的にするのなら、より巧妙かつ慎重な場づくりが必要になるだろう。

 「わが事、丸ごと」といった聞こえのいい言葉と共に語られる地域共生社会にも、限界はある。地域の枠を超えられないことだ。

 地域は共同体の一つにすぎない。職場や趣味の集まりを大切にする人もいれば、どれにも緩やかに関わっている人もいる。人間関係が心地いいか煩わしいか、感じ方は人それぞれだ。

 また「村八分」という言葉がある通り、地域には活動に協力的でないとか和を乱すとか、さまざまな理由を付けて仲間外れにしたり、同調圧力をかけたりする傾向があることも見過ごせない。高齢者・障害者施設の設置に反対運動を行うような排他性をはらむことも、忘れるべきではないだろう。

 お寺や教会としては、そうした排他性を戒めつつ、地域のよりどころとしての存在感を示すことが大事だ。加えて、地域共生社会への貢献以上の役割を果たせることも強調しておきたい。

 すなわち檀家・門徒・信者の信仰に基づく結び付きや、イベント参加者との新たなご縁など、複数のコミュニティーを重ね合わせることができるという点である。

 変幻自在に、誰のための場にもなり得るのがお寺や教会の特長なのだ。

 お寺や教会の子ども食堂にはさまざまなやり方があり、先行事例が豊富にある。信仰に基づくコミュニティーが分厚くなったところもある。まだ取り組んでいないお寺や教会は、ぜひ今からでも検討してほしい。(主筆 小野木康雄)

【用語解説】子ども食堂

 子どもが一人で行ける無料または低額の食堂。困窮家庭やひとり親世帯を支援する活動として始まり、居場所づくりや学習支援、地域コミュニティーを形成する取り組みとしても注目される。

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