2024年4月26日
※文化時報2024年3月12日号の掲載記事です。
大阪府東大阪市の布施医師会(平松久典会長)は2日、第33回布施緩和ケア研修会をオンラインで行い、浄土真宗本願寺派妙行寺(鹿児島市)の井上從昭住職(61)を講師に招いた。井上住職は医療職らに向けて、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)=用語解説=を身近なものにする自坊でのトークイベント「縁起でもない話をしよう会」について紹介。「普段から共に考え、語り合い、聴き合うことが大切」と語った。(主筆 小野木康雄)
布施緩和ケア研修会は8年前から3カ月に1度ほどのペースで開催。在宅診療に携わる医師をはじめ医療・介護の多職種が参加しており、この日は約200人が視聴した。
井上住職の講題は「元気な時こそ縁起でもない話を~死生観は人生観、豊かな人生を生きるために」。2018年から28回にわたり、お寺での対面やオンラインで「縁起でもない話をしよう会」を行ってきたと伝えた。
ある回では、延命治療を望むかどうかという医師からの問いかけに、自分自身や親・配偶者に関しては圧倒的多数が「自然に」を選んだ一方、自分の子どもに対しては「選べない」や「胃ろう」といった回答が増えたと明かした。こうした話題も穏やかに、笑顔で話せるのが「縁起でもない話をしよう会」の特長であり、聴いてくれる仲間や場が必要だと説明した。
また、死をタブーとして語れなくしている社会がある一方、仏教やお寺を通じて生活や文化に死が根付いているとも指摘。「安心できるよりどころであるための寺院を目指す」とする妙行寺の活動方針に即して、「縁起でもない話をしよう会」が医療・福祉関係者と地域の人々が顔見知りになり、つながるきっかけにもなっていると語った。
配信前の待機時間中に行われた井上住職へのインタビューや講演後の質疑応答では、お寺への期待をにじませる質問が相次いだ。
今回の研修を企画した布施医師会の川邉正和・緩和ケア担当理事(かわべクリニック院長)は、本願寺津村別院(北御堂、大阪市中央区)で2019年に行われた「縁起でもない話をしよう会」に参加して井上住職と出会ったのをきっかけに、自身もオンラインで同様の会を開いている。
川邉理事は「在宅看取(みと)りの現場で葬儀の相談を受ける機会があり、僧侶なしでと言われる場合もある。どう感じるか」と質問。井上住職は「皆さんの中に、私たちが存在していない気がする。昔のようにお寺が生活の一部にあるのでなく、生活から外に出た所にあるのではないか」と答えた。
また、参加者から家族葬に対する考え方について問われると、井上住職は「致し方ないことだが、葬儀はケアになる。遺族を孤立させないようにすることが大事」と理解を求めた。
「会になかなか参加しない人に、どうアプローチすればいいか」との問いかけには「地域の方々を味方につける。地域のネットワークを通じて情報を伝え、誘ってもらえれば来やすくなる」。「どうすればお寺は集いの場をつくってくれるのか」との質問には「住職は何かやりたいと思っていても、自分からアプローチするのが下手かもしれない。ダメ元で持ち掛けてくだされば」と答えていた。
【用語解説】アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
主に終末期医療において希望する治療やケアを受けるために、本人と家族、医療従事者らが事前に話し合って方針を共有すること。過度な延命治療を疑問視する声から考案された。「人生会議」の愛称で知られる。