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「生きるのヘタ会?」細川貂々さん、初のお寺開催

2023年6月23日

※2023年5月12日号の掲載記事です。

 『ツレがうつになりまして。』(幻冬舎)の作者で漫画家の細川貂々(てんてん)さんが、兵庫県宝塚市の真言宗大覚寺派成福院(今井弘道住職)で「生きるのヘタ会?」を開いた。2019(令和元)年9月から30回以上にわたり実施しているイベントで、かねてより希望していたというお寺での初開催となった。(松井里歩)

ゆるく心に向き合う

 細川さんは、うつ病になった夫を支える日々をユーモラスに描いたベストセラー『ツレがうつになりまして。』をはじめ、自身の心の問題に向き合うエッセーなどを数多く刊行する漫画家。4月には児童書『こころってなんだろう』(講談社)を出版し、子どもにも心が学べるような取り組みも行っている。

『こころってなんだろう』(講談社)
『こころってなんだろう』(講談社)

 成福院での「生きるのヘタ会?」は4月5日に行われ、14人が参加。細川さんが、簡単な約束事を書いたスケッチブックを提示し、参加者のニックネームと今の気分、話したいことをイラスト付きでホワイトボードに書いていくところから始めた。「定年が近くなり焦っている」や「春になると気分が落ち込む」など、それぞれが抱えるモヤモヤした気持ちを1人ずつ語っていった。

 話に対する共感や意見などを出し合う中、細川さんは流れが止まるとフォローするなど、朴訥(ぼくとつ)ながらも話しやすい緩やかな雰囲気をつくり上げていた。参加者からは「話すだけでも少し心が軽くなった」との声が聞かれた。

当事者として始めた

 「生きるのヘタ会?」開催のきっかけは、細川さん自身が発達障害の当事者であり、人の気持ちが分からず苦労してきた経験だった。しかし、ヘタ会で何度も話を聞くことで、他人がどう考えているのかを知り、自分と違っていても認められるようになっていった。今では「人の心を知りたい」という一心で開催を続けているという。

細川貂々さんが司会になって行う「生きるのヘタ会?」
細川貂々さんが司会になって行う「生きるのヘタ会?」

 「その時出会った人や話してもらったことは毎回が新鮮で印象的。同じ会になることはないし、この会に求めることも何もない。期待や希望があってもなくてもいい」。それがヘタ会という場所だと語る。

 会を開くにあたっては、当事者研究をベースにした会にすると決めていた。当事者研究を世に広めた社会福祉法人「浦河べてるの家」の向谷地生良さんの元へ取材に行き、実際に会にも参加したという。

 このため、自分も宝塚市の図書館や成福院で場所を借りる際には、開催前に館長や司書、今井住職の妻である薫さんに一度体験してもらい、場の提供者にも空気感を理解してもらうことを意識している。

お寺に感じた受容の力

 コロナ禍のさなかには、図書館が休館になるなどし、「生きるのヘタ会?」自体も中止を余儀なくされることがあった。そこで、今後は公共施設だけでなく、自身が参加している宝塚市内のマルシェや河川敷など、さまざまな場所でも行いたいと考えていた。そうした中、成福院での開催が実現したという。

成福院の入り口には看板も
成福院の入り口には看板も

 「私は場のことを生き物と捉えていて、来る人によって変化するようなイメージを持っている。しかし、お寺はその場自体に力があるので、あまり変化しない、落ち着いた場になるのかもしれない」。細川さんはそう期待して1回目に臨んだという。

 実際に終えてみて、「以前から、開催の場としてお寺は合っているのではと考えていた。あらかじめ人を受け入れる態勢ができている場なのだと強く感じ、居心地が良かった」と振り返った。

 相愛大学学長で宗教学者の釈徹宗さんの監修で仏教に関する本も出版するなど、元々仏教は大好きだという細川さん。宗教者や宗教施設が地域に開かれた場づくりをするためには、地域の人へ自分たちの立場をオープンにする必要があると考えている。

 「宗教の役割には、困った時に人々を助けるという面もあると思う」と話し、「地域の人たちのよりどころとなれるような取り組みをしていくのがいいのではないか」と語った。

法話と終活のお寺

 「生きるのヘタ会?」の会場となった成福院は、自坊を「法話と終活のお寺」と称し、グリーフ(悲嘆)ケアを行う「寺cafe」や写経会を実施している。イベントでは必ず今井弘道住職らが法話し、寺庭婦人の今井薫さんは終活カウンセラー認定講師として終活相談に乗るなど、多くの人が訪れる居場所づくりに力を入れている。

今井薫さん(本人提供)
今井薫さん(本人提供)

 薫さんは「生きるのヘタ会?」について、以前から興味を持っていたという。宝塚市内で月1回開催されているマルシェで細川さんと出会い、意気投合。「図書館以外でも開催したい」という細川さんと、その取り組みを高く評価する薫さんの思いが一致し、すぐに成福院での開催が決まった。

 図書館とお寺の両方で「生きるのヘタ会?」に参加した薫さんは「お寺の方が温かい雰囲気だった」と振り返った。

 薫さんが地域の人を招く取り組みを始めたきっかけは、お寺の理想と現実にギャップがあったことだ。在家出身の薫さんは元々、お寺に開放的なイメージを持って嫁いだ。しかし実際は「何か用事がなければ話ができない」と檀家から指摘されるなど、交流が少なく閉鎖的な場であると感じたという。

 だが、父から「お寺を明るくしてこい」と送り出されたことが支えとなり、積極的なあいさつや会話を心がけたことで、今では多くの人が集まる開かれた場となっている。

境内に小さくたたずむ亀の像。今井住職の趣味だという
境内に小さくたたずむ亀の像。今井住職の趣味だという

 毎月数々の行事を行う成福院の特徴は「家族みんなが役割を持つスタッフであること」。薫さんは「全員がイベントに参加することで、檀家さんにも喜んでもらえている」と話していた。

 成福院での今後の「生きるのヘタ会?」は毎月第1水曜に開催を予定している。

 寺cafeはコロナ禍で中断していたが、5月から毎月第3水曜に再開させるという。

【用語解説】当事者研究

 困難を抱える人が、類似した仲間とのやり取りを通じ、困難のメカニズムや対処法について研究する営み。自身の問題を外在化し、他者との対話によって理解することを目的に行われる。主に問題の解決ではなく、客観的に向き合う態度の形成を目指す。

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