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福祉仏教ピックアップ

⑭障害と高齢、一体で 曹洞宗龍泰寺

2023年8月11日

※文化時報2023年3月7日号の掲載記事です。

 岐阜県関市の曹洞宗龍泰寺(宮本覚道住職)が1996(平成8)年に設立した社会福祉法人祥雲会(宮本洪純理事長)は、高齢者福祉からスタートして、現在は障害者福祉に注力している。グループホームの開設や就労継続支援事業の拡充に取り組んでおり、規模は従業員200人超、事業収入10億円近くに達している。

高齢者福祉事業を総合的に行う祥雲会
高齢者福祉事業を総合的に行う祥雲会

「慈愛・自尊」を理念に

 「毎朝散歩で近くの老人ホームに行くと、入居者は一人ぽつんと椅子に座っているだけで、話題といえば『早く死にたい』ばかり。これではいけないと思い、生きる喜びを伝えていきたいと思った」

 龍泰寺の前住職で祥雲会を設立した宮本洪純理事長は、お寺として社会福祉法人を立ち上げた理由をこう語る。生きる喜びを伝えるのは仏教の根本理念であり、設立はその同一線上で考えたことだという。

 このため、祥雲会は理念を「慈愛・自尊」としている。

 経営ビジョンは「元気な頃から利用できて、終末期を安心して迎えられる施設づくり」。1997年から2006年までの間に、デイサービスなどの通所系、ホームヘルパーなどの訪問系、ケアハウス、特別養護老人ホーム、養護老人ホームなどの入居系のサービス・施設を備え、高齢者福祉事業を総合的に行う地域になくてはならない法人へと成長した。

「親なきあと」の住まい

 12年には関市の公募に手を挙げ、障害者の生活介護を担う障害福祉サービス事業所(定員30人)と地域包括支援センターなどが移管された。現場を取り仕切る林幸司業務執行理事は「これを境に、高齢者だけでなく障害者の相談も持ち込まれるようになり、障害者福祉にもしっかり取り組むようになった」と語る。

 障害者福祉で特に要望が多かったのは、グループホームだった。障害福祉サービス事業所に通う子の親からは「今は通えているが、自分たちが年を取っていくので行く末が心配」など、「親なきあと」への不安の声が聞かれた。地域包括支援センターにも、ひきこもりや就労できない障害者に関する住まいの相談が寄せられた。

「親なきあと」の不安に対処するため建設したグループホーム
「親なきあと」の不安に対処するため建設したグループホーム

 そこで、18年にグループホームあかつき「つくしの家」(定員10人)を開設。ショートステイ(定員1人)も行うようにした。場所は、年老いた親と障害を持った子が、近くに住んで行き来できるよう、ケアハウスや特養の隣に設けたという。

 「つくしの家」を開設した効果について、林業務執行理事は次のように話す。

 「自分たちが支えられなくなったとき、障害のあるわが子の人生がどうなってしまうのかという親の不安が解消された。本人も支援を受けることで、親がいない環境でも楽しく安心して生活できることを学べた」

障害者の仕事増やす

 障害福祉サービス事業所は22年に移転新築。生活介護(定員20人)と就労継続支援B型事業=用語解説=(定員20人)を行う多機能型事業所として、事業規模が拡大した。就労支援としては障害者の仕事を増やす必要が生じた。外部の会社から軽作業などを請け負うだけでなく、祥雲会全体で行われている作業を洗い出して、障害者にもできることがないか検討し、実行計画を立てた。

2022年に移転新築した障害者向け多機能型事業所
2022年に移転新築した障害者向け多機能型事業所

 まず、従来は外注していた高齢者施設の利用者が使うタオル類を洗濯・乾燥し、たたんで袋に入れて各フロアに配る作業を、障害者に行ってもらうことにした。来年度は、おやつを作ってもらうことを予定しており、それが軌道に乗れば、食事の提供も計画している。

 食事は現在、外部の業者に委託し、施設の中で調理しているが、方法を変えれば障害者にも可能だそうだ。レトルト食品の活用や、外部で調理後すぐに1食分ずつパックに詰めて半冷凍し、施設に運んでから障害者が湯洗して提供する方法を検討している。

 祥雲会の今後の方針について、林業務執行理事は「障害者福祉は、計画を予定通りに進めていくこと。高齢者福祉については、利用者本人だけでなく家族を含めてより満足していただけるようにしていきたい」と語った。

「葬儀と永代供養も担う」宮本洪純理事長の話

 お寺が設立した社会福祉法人らしさということでは、経営ビジョンの中の「終末期を安心して迎えられる施設づくり」を重視しています。

 具体的には、敷地内に兼務寺である薬師寺があり、いつでもお参りできますし、現に毎日のようにお参りしている施設の利用者さんもいます。

祥雲会の敷地内にある薬師寺では、仏教行事や葬儀を行う
祥雲会の敷地内にある薬師寺では、仏教行事や葬儀を行う

 薬師寺ではまた、葬儀のほか、法事やお盆などの仏教行事も行っています。さらに、身寄りがない方が亡くなった後のことを安心できるよう、永代供養も行っています。祥雲会では関市から移管された養護老人ホームも運営しており、身寄りのない利用者さんが多いことから、葬儀や永代供養を行う方は多くいます。

 そのほか、以前は私が利用者さん向けに「椅子坐禅」を行っていました。長らく続けていましたが、年をとるにつれて足腰が弱くなり、集まる方が減ってきました。

 そこで息子の覚道住職に頼み、祥雲会の各事業所に月1回出向いて30分程度の法話を行ってもらうようにしました。コロナ禍になって中止していますが、落ち着けば再開する予定です。

【用語解説】就労継続支援B型事業

 一般企業で働くことが難しい障害者が、軽作業などを通じた就労の機会や訓練を受けられる福祉サービス。障害者総合支援法に基づいている。工賃が支払われるが、雇用契約を結ばないため、最低賃金は適用されない。

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