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⑯「ごちゃまぜ」の共生力 社会福祉法人佛子園 ㊦

2023年9月15日

※文化時報2023年4月11日号の掲載記事です。

 社会福祉法人佛子園(石川県白山市)が積極的に推進する「ごちゃまぜ」の場づくりには、全国で福祉やまちづくりに携わる関係者らが熱視線を注いでいる。公衆衛生学や青年海外協力隊の開発援助手法を応用しており、科学的根拠(エビデンス)に基づく取り組みなのだという。どのような場づくりなのか。前回(4月4日号)に引き続き、雄谷良成理事長に聞いた。

 

佛子園の取り組みについて講演する雄谷理事長
佛子園の取り組みについて講演する雄谷理事長

黒子に徹したまちづくり

 《雄谷理事長は、かつて青年海外協力隊としてドミニカ共和国に赴き、障害福祉指導者の育成に従事した。現在は、青年海外協力隊経験者が中心となって設立された公益社団法人青年海外協力協会(JOCA)の会長を務めており、開発援助手法であるプロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)にも詳しい》

――「ごちゃまぜ」の場づくりに、PCMを活用されているそうですね。どのような手法なのでしょうか。

 「現地の人々が自主的に取り組みを継続できるよう、あらかじめ問題点を共有して分析・判断・実行を可能な限り委ねる手法です。隊員はいずれ現地を離れるため、いなくても回る仕組みを整えておかなければならないのです」

 「『ごちゃまぜ』の場づくりで活用しているのは、問題点の共有を入り口にすると、地域住民の納得感が高く、主体性のある参加型福祉やまちづくりができるからです。自分たちでできることまで全部こちらがやってしまうと、依存させてしまって、うまくいかない。佛子園は黒子に徹し、出来上がった拠点なども地域住民の財産として、維持してもらっています」

――どういうことでしょうか。

 「例えば、拠点には天然温泉を設けていますが、周辺住民に無料で使ってもらいます。そうすると、4人家族で光熱費が月2~3万円浮きます。家事もずいぶん楽になります」

「三草二木 西圓寺」内にある足湯
「三草二木 西圓寺」内にある足湯

 「一方、浮いたお金で、うちのそば処などで週1回は飲食できます。お客が増えると、地域に雇用が生まれ、地域資源が増えるわけです。このようにして、地域が良くなっていくのです」

関係人口6割超える

――「ごちゃまぜ」の場づくりでは、関係人口=用語解説=も重要だそうですね。

 「従来の福祉施設は、高齢者は高齢者、障害者は障害者と縦割りでしたから、サービスを受ける人と提供するスタッフしか施設を利用しませんでした」

 「しかし『ごちゃまぜ』では、温泉や飲食、買い物などのために施設を訪れる地域の人々の存在が重要です。移住促進や観光などで使われる関係人口の考え方と同じで、こうした人々がどれだけ多くいるかが、『ごちゃまぜ』の共生コミュニティーをつくる鍵になるのです」

 「公衆衛生学には、病気を治すのは病院である一方で、健康を促進する役割は地域が担うという考え方があります。ここでも、関係人口が大事になってきます」

――これまでに整備した地域や施設で、関係人口はどのくらいに上りますか。

 「例えば、2015年4月に開設した『B‘s 行善寺』(白山市)は、1年後の利用者数約1万2300人に対し、関係人口は59%でした。これが3年後の18年3月には利用者数約3万5400人で、関係人口は64%となりました」

ごちゃまぜは「第3の医療」

――雄谷理事長は、母校の金沢大学で講師を務め、公衆衛生学を教えているそうですね。『ごちゃまぜ』の根幹を成す人と人との関係と、健康にまつわるエビデンスはありますか。

 「三つあります。一つ目は、生きがいと生存率の関係です。生きがいのある人の7年間の生存率は、ない人より1割くらい高い。宮城県のある保健所管内で、1994年10~12月に国民健康保険に加入していた40~79歳の全員(約5万5千人)を対象とした調査です」

 「B's行善寺」の料飲施設「やぶそば」のカウンターを利用する人たち
「B’s行善寺」の料飲施設「やぶそば」のカウンターを利用する人たち

 「二つ目は、『人生の目的』と要介護リスクの関係です。人生の目的がある高齢者は、ない高齢者に比べ要介護の発生率が約4割も低くなっています。これは、米シカゴの高齢者住宅に住む970人を対象にした調査です」

 「三つ目が、孤立・閉じこもり傾向にある高齢者の生存曲線です。孤立・閉じこもり傾向にある高齢者の6年後の死亡率は、傾向のない高齢者に比べて2・2倍も高くなっています」(出典・東京都健康長寿医療センター)

 「このように、人と人が関わることは、健康や生存に大きな影響を及ぼします。そこで私は『ごちゃまぜ』を『第3の医療』と呼んでいます」

――「人が来ない」「集めるのが難しい」というお寺に、アドバイスをお願いします。

 「お寺の関係者は、佛子園の成功事例を見聞きして驚き、『うちではとてもできない』と言う方が大半です。でも、佛子園の母体の行善寺(白山市)は檀家が少なく、佛子園も引き継いだ当初は職員10人ほどの法人でした」

 「私が最初に再生を引き受けた西圓寺(石川県小松市)も、まず行ったことは、お寺の修理や掃除をし、お茶やコーヒーを入れて喜んでもらうという簡単なことでした。少しずつやっていったら、いつの間にか施設ができていたのです」

「Share(シェア)金沢」のまちの様子
「Share(シェア)金沢」のまちの様子

 「佛子園がつくった施設を見学して〝虎の巻〟みたいなものが欲しいという方がいますが、そういう了見ではうまくいかないでしょう。1人の人に喜んでもらうのだというマインドがなければ、大きくなれません」

旅行会社が視察ツアー

 佛子園の地域コミュニティー施設を視察に訪れる人は多い。本部がある『B‘s 行善寺』だけでも、年間40万人を超える。提携する大手旅行会社が視察ツアーを組んで対応しているほどだ。
 
 それまでも福祉関係者が訪れることは多かったが、地方創生を掲げる政府から、2014(平成26)年に「生涯活躍のまち」(日本版CCRC)の先進モデルとして評価されたことが転機となった。「生涯活躍のまち」の実現を目指す市町村は多く、まちづくり関係者の視察が相次いだのだ。

 寺院関係者も「人が集まるお寺」の先進モデルとして見学に訪れており、中には佛子園に指導を依頼するところも出てきたという。

お寺がにぎわう理由

【用語解説】関係人口

 観光に訪れる「交流人口」と移住した「定住人口」の中間で、地域に関わる人々。人口減少社会で地域づくりの担い手となることが期待されており、主に農村部の地方自治体が関係人口を増やす施策を進めている。

 

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