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農福から「仏福連携」 真言宗2派、高知で合同講習

2023年10月28日

※文化時報2023年9月15日号の掲載記事です。

 農業と福祉が連携する農福連携=用語解説=をヒントに、仏教と福祉が協働する「仏福連携」の可能性を探ろうと、真言宗智山派高知教区(野島充教区長)と真言宗豊山派高知県宗務支所(川口秀徳支所長)が初の合同講習会を開いた。自死予防を念頭に、生きづらさを抱える人々に僧侶がどんな支援ができるかを考えるのが目的。僧侶ら19人が、農福連携の先進事例として知られる高知県安芸市の取り組みを学んだ。(春尾悦子)

 講習会は7月26日、高知市の豊山派安楽寺(小角隆幸住職)で行った。智山派高知教区の活動方針を、自死予防とフードドライブ=用語解説=に掲げる野島教区長の思いに小角住職が応え、自坊を会場に提供。13カ寺から出席者があった。

熱気あふれる智山派・豊山派の合同講習会=7月26日、高知市の安楽寺
熱気あふれる智山派・豊山派の合同講習会=7月26日、高知市の安楽寺

 安芸市では、自死対策に携わる関係機関のネットワークが、連携を深めることで他の課題にも対応できるようになった。生きづらさを抱える人々の孤立を防ぎ、安心できる居場所や就労先をつくりたいとの観点から、農福連携につながったという。

 講師を務めた高知県安芸福祉保健所健康障害課の公文一也氏は、安芸福祉保健所が2013(平成25)年度に立ち上げた「ここから東部地域ネットワーク会議(自殺予防ネットワーク)」が基盤になっていると紹介。

 警察や消防、病院からも支援同意を得ていることで、未遂者が再度、自死を試みるのを防ぐことにつながっていると指摘した。

 また、就労支援は農業にとどまらず林業や水産業にも広がり、安芸市内の27事業所で105人が働くようになったと明かした。

 もう一人の講師で、実際に就労先となっている一般社団法人こうち絆ファームの北村浩彦代表理事は、掃除などの簡単な役割を与えられるだけでも社会復帰のきっかけになると伝え、愛媛県のお寺がコイの餌やりに通うよう頼んだことでひきこもりが解消したとのケースを示した。

北村代表理事が手がける農園で行われたナスの定植作業
北村代表理事が手がける農園で行われたナスの定植作業

 参加した僧侶からは、どんな言葉や態度で対応すればいいかという質問のほか、「寺院を、生きづらさを抱える方々との交流と、理解の場にしたい」などの前向きな意見が相次いだ。

 小角住職は、コロナ前は自坊安楽寺近くの精神科病棟から入院患者が週1回、朝の掃除に来て、退院後も日課のように通ってくれた例があると話し、「今後もできることを考え、講習会を続ける中で共に学びたい」と展望を語った。

 自坊清水寺で今夏は寺子屋のように客殿を提供し、学習支援を行ったという野島教区長は「昔の寺院は地域の相談所の役割も担っていた。現代の地域社会で必要とされる寺院・僧侶であるためにも、供養だけでなく、生きづらさを抱える方々の支えになりたい」と力を込めた。

寺院へ期待「支援機関とのつなぎ役に」

 仏教と福祉が協働する「仏福連携」に向けて、真言宗智山派高知教区(野島充教区長)と真言宗豊山派高知県宗務支所(川口秀徳支所長)が7月の合同講習会で講師に招いた高知県安芸福祉保健所健康障害課の公文一也氏と一般社団法人こうち絆ファームの北村浩彦代表理事は、農福連携のキーパーソンとして高知県安芸市内で精力的に活動している。2人はなぜ農福連携を始め、寺院に何を期待するのか。

講師を務めた公文氏(左)と北村氏(右)。中央は講習会を企画した真言宗智山派高知教区の野島充教区長
講師を務めた公文氏(左)と北村氏(右)。中央は講習会を企画した真言宗智山派高知教区の野島充教区長

 公文氏が農福連携に関わりだしたのは2014(平成26)年。友人から「ビニールハウスを拡大したい」と頼まれ、親戚の農地を貸したことがきっかけだった。その土地が石だらけで、友人から「責任を持って何とかしてくれ」と言われ、膨大な量の石拾いを手伝っていた。

 そんなある日、地元の社会福祉協議会の紹介で、生活に困っているひきこもりの青年と出会った。青年は見事な畑を自分でつくっており、周囲には石ころの山が築かれていた。「この石、君が拾ったのか」と尋ねると、そうだという。「石拾いのバイトをせんか」と持ち掛けた。

 そのおかげもあって、3カ月かけて石拾いは完了。ハウスが無事に建つと、青年はそこで働くようになった。「コミュニケーションを取るのが苦手でも、黙々と作業し、仕事のできる人だった」という。

 それが噂になって、人手不足に悩むさまざまな農家から、公文さんの元へ問い合わせが殺到。青年も徐々にコミュニケーションが取れるようになり、いろいろな畑で農作業に励んだ。

 公文さんは、これを「つながる就労支援」と称して紹介するようになった。すると、職場の上司から「君がやっていることは、農福連携というんだよ」と教えてもらったという。やがてさまざまな縁がつながり、人手を求める林業や水産業にも就労先が広がっていった。

 「仏福連携」の取り組みについては「お寺が相談所になれば、地域でのコミュニケーションの機会が増える。各家庭と支援機関のつなぎ役になってもらえると、早期に必要な手立てを打てる」と期待を寄せた。

やさしい人をたくさん

 北村代表理事は、大阪生まれの大阪育ち。10年ほど前、44歳のころに企業の中間管理職を辞し、スローライフを目指して高知県安芸市へ移住してきた。地域の人たちとつながり、名産のナスを作るようになった。

ナスの収穫作業
ナスの収穫作業

 約3年前から、ひきこもりなど生きづらさを抱える人々が「自分の力で生きていけるようになる」ことを目指し、こうち絆ファームを設立。5000平方メートルのハウスでナスを栽培している。就労支援に協力してくれる委託農家も25軒に上るという。

 就農者53人と職員23人の大半が、何らかの精神障害のある当事者だ。1年365日、元日も休まずに来る女性もいる。別の市で数年間ひきこもっていた人は、現在はナス農家を経営。25年間ひきこもっていた人は、農作業を通じて他人の手伝いができるようになり、昨年8月に職員となった。

 雇用につながる理由は、やはり安芸市の官民を挙げた連携だという。「例えば市役所は、どの部署に助けを求める電話がかかってきても、垣根を越えて対応する仕組みが整っている」。警察や消防、病院を含めた重層的な支援体制があり、必要な専門機関・部署につなげることができるという。

 現実には、雇用されて固定給を得られるようになる人もいれば、就労継続支援B型事業=用語解説=として1日約200円の工賃を受け取る人もいる。その人の状況に合った就労支援の形がある。

 農福連携は、生きづらさを抱える人と、担い手不足に悩む農業とのマッチングによって、地域共生社会を目指す。それだけに「働きたい時間だけ働いてもらう。無理をしない働き方が鉄則」なのだという。

 農業は「やりたい」と思えることと出会える場でもある。自ら生産した野菜を軽トラックで売りに行ったり、年2回のマルシェ開催も楽しみになる。

 北村代表理事が喜びを感じるのは、例えば長年ひきこもってきた人から「話を聞いてもらえただけで、元気になれる」と言葉をかけられるようなときだ。「人にやさしくできる人がたくさん育つと、地域がよくなる。農福・仏福連携で、地域共生社会ができれば」と話している。

【用語解説】農福連携(のうふくれんけい)

 障害者らが農業分野で活躍し、社会参画を実現する取り組み。障害者の雇用や就労、生きがいづくりだけでなく、高齢化が進む農業分野の担い手不足を解消する狙いもある。2016(平成28)年に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」に推進が盛り込まれた。。

【用語解説】フードドライブ

 家庭で余った食品を捨てないで持ち寄り、福祉施設や貧困者らに寄付する活動。発祥とされる米国などでは食品ロスを減らす取り組みとして広まっている。売り物にならない食品を引き取って必要な所に届けるフードバンクや、無料配布するフードパントリーなどを通して行う。

【用語解説】就労継続支援B型事業

 一般企業で働くことが難しい障害者が、軽作業などを通じた就労の機会や訓練を受けられる福祉サービス。障害者総合支援法に基づいている。工賃が支払われるが、雇用契約を結ばないため、最低賃金は適用されない。

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