2023年12月3日
※文化時報2023年6月6日号の掲載記事です。
浄土宗法源寺(静岡県富士市)の髙瀨顕功副住職は、飛び地境内を活用して、不登校やひきこもりの若者たちと一緒に農園を作っている。2年半続けてきて、農作業はメンタルヘルスにとても良く、大きな変化や成長が見られる若者もいるという。
髙瀨副住職が、不登校やひきこもりの若者たちと一緒に農園を始めた経緯はこうだ。
法源寺には、80メートルほど離れた所に約60坪(約200平方メートル)の飛び地境内がある。近隣住民が畑として利用していたが、高齢で畑仕事ができなくなった。そのままにしておいたら草が伸び放題となり、シルバー人材センターに草取りを依頼したところ、結構な費用がかかってしまった。
何か良い方法はないかと思案していたところ、髙瀨副住職の知り合いで、不登校やひきこもりの若者たちの就労支援などを行っている「富士市若者相談窓口 ココ☆カラ」から「就労体験や社会参加の場が、コロナ禍で一気になくなってしまった。お寺で何かできることはないか」と相談を受けた。そこで、草取りを一緒に行ってもらうことにした。
1回目を2020(令和2)年12月、2回目を21年1月に実施。髙瀨副住職は「草取りだけを続けていては、気持ちが乗らない。野菜を育てるのがいいのではないか」と、若者たちに提案。農園を始めることにしたという。
21年にはジャガイモ、サツマイモ、キュウリ、枝豆などを植えて収穫。参加者が持って帰るだけでなく、法源寺の近隣の人たちにも配ると喜ばれた。作業時間は基本、午前中の3時間。土づくりや草取りなどもあるため、作業回数は年間23回に及んだ。
農園2年目の22年は畑を広げ、野菜の種類も増やした。サツマイモは収穫量が多かったので、近所の子どもたちに声をかけて芋掘りをしてもらった。年末には、通行人に見てもらえるようにと、花壇も作った。この年の作業回数は21回だった。
3年目の今年は、二つ目の花檀を作り、4月中旬までの作業回数は7回となっている。
これら約2年半の農園作業に参加した「ココ☆カラ」の若者は12人ほど。参加者は延べ134人となっており、参加を続けている若者が多いという。1回当たりの参加者は多い時で5人、少ない時は1人。平均2.6人だ。
不登校やひきこもりの若者たちと一緒に農作業を続けている理由について、髙瀨副住職は「若者たちが社会とつながる場を作りたいから」と説明する。
日本の労働は1日8時間、週5日が基本のため、それができないと就労は難しい。また、就業人口のうち第3次産業の従事者が7割を超えており、コミュニケーションや対人関係をうまく築けない人にとっては働くことへのハードルは高い。
不登校やひきこもりの当事者の中には、発達障害や精神疾患を抱えている人もいる。就労の前段階として、社会とつながる機会やなじめる場があまりないという。
そのため、参加しやすくしようと、条件は何も設けなかった。遅刻しても、早めに帰っても、収穫の時だけ参加してもいいことにした。1回3時間の作業時間の合間と終了後には、お茶の時間をつくり、髙瀨副住職が参加者一人一人に話し掛けて、会話するようにした。
さらに、地域の人たちとも交流している。収穫した野菜を配っているほか、寺のホームページでは農園作業の報告を定期的に行っており、その中で「若者の姿を見たら、ぜひお声掛けください」と呼び掛けている。
農作業の強みについて、髙瀨副住職は「まず体を動かす喜びがある。それに、草取りをすればきれいになり、作物が収穫できるという成果が見えやすく、達成感が得られる」と強調する。
また、皆で協力して行う作業もあれば、草取りのように一人で黙々と行う作業もあり、若者たちの向き不向きに応じやすい。収穫した野菜を手渡すと「ありがとう」「上手にできたね」などと感謝され、自己肯定感が上がる。「自分にもできる、自分も役に立つ」と実感できるため、メンタルヘルスにいい影響がある。
変化や成長という面では、「自宅では口を開くけれども学校や会社では話せなくなってしまうという若者が、子どもに優しい表情を見せるようになり、今ではお土産を持ってきてコミュニケーションを取ろうとするようになった」という。
ほかにも、少しずつ慣れてくることで表情が明るくなったり、しっかり受け答えができるようになったりした若者もいるそうだ。
今後は、収穫した野菜を皆で一緒に料理して食べる機会を設けたいという。「できればその場に親御さんを招き、わが子の育てた野菜を食べていただく。あるいはお寺の畑で取れたものだからと、檀家さんを呼ぶ。そうすれば、もっと活動に広がりが出てくる」。髙瀨副住職は、抱負をこのように語っている。