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コンパッション・コミュニティを語り合う

2023年12月17日

日本ホスピス・在宅ケア研究会

※文化時報2023年11月17日号の掲載記事です。

 看護やケアを取り巻く問題を医療・福祉従事者や宗教者らが学ぶ日本ホスピス・在宅ケア研究会の全国大会が10月28、29の両日、仙台市内で開かれた。慈悲や思いやりと訳される「コンパッション」に根差した情け深い地域社会「コンパッション・コミュニティ(CC)」について、会員ら約670人が理解を深めるとともに、一方通行ではないケアに向けた協働の在り方を考えた。(松井里歩)

 大会テーマは、CCを東北弁で説明した「おらぁ、ここで最期までいぎてぇ―〝情げぶけぇ〟コミュニティをめざして」。CCは老、病、死、喪失を抱える市民同士が支え合うコミュニティで、医療中心の緩和ケアとは異なり、互いにケアすることで苦を和らげる。終末期医療や高齢者介護に携わる医療・福祉従事者や、コミュニティ形成と「場づくり」を担いやすいお寺や教会などの関心も集めている。

 1日目は、著書『コンパッション都市―公衆衛生と終末期ケアの融合』の中でCCを提唱した米バーモント大学臨床教授のアラン・ケレハー氏が基調講演を行い、コンパッションとは何か、なぜ必要なのかを詳細に説明した。

CCについて語るアラン・ケレハー氏
CCについて語るアラン・ケレハー氏

 ケレハー氏は「コンパッションは、誰かにしてあげることではなく、誰かと一緒にすることだ」と言い、学校・お寺などの市民組織や市民自身を巻き込んだコミュニティの形成がCCにつながると説明。ヘルスケアの在り方を再構築し、多職種の専門家が新しいつながり方で共に活動していくよう呼び掛けた。

 また、緩和ケアでは薬を出す医療だけでなく、社会福祉やスピリチュアルケア=用語解説=なども重視されることから「専門家だけでなく、市民全員が責任を持ち、互いに健康を維持・促進することで地域全体も健康になるという『パブリックヘルス』に基づくケアが大事だ」と強調した。

 このほか2日間にわたる大会では、過去3回のプレ大会の登壇者などを招き、講演やシンポジウムを行った。「若者が考えるCC」や「グリーフケア部会」「臨床宗教師=用語解説=医療・福祉従事者との連携」など、各会場に分かれて多くの発表やグループワークが行われた。

 「臨床宗教師―」の部会では、臨床宗教師と医療・福祉従事者らが交じって話し合い「地域密着型の臨床宗教師が必要ではないか」「患者や利用者が不安を感じやすくなる夜に入ってもらいたい」という意見が出されていた。

 大会長を務めた東北大学大学院文学研究科教授の谷山洋三氏(臨床死生学)は閉会式で「本大会がCCについての重要な転換点になったのではないか」と2日間を振り返った。

葬儀をCCの場に カール・ベッカー氏

 コンパッション・コミュニティ(CC)をテーマに仙台市内で行われた日本ホスピス・在宅ケア研究会の全国大会のうち、スピリチュアルケア部会では10月29日、「京都大学政策のための科学ユニット」特任教授のカール・ベッカー氏が登壇。「CCが支え得る介護者や遺族の心身的ケア」と題して講演し、葬儀は参列者や僧侶にとってのグリーフ(悲嘆)ケアとなることから「CCの最後のとりでだ」と伝えた。

聴講者に語り掛けるカール・ベッカー氏
聴講者に語り掛けるカール・ベッカー氏

 ベッカー氏はまず「コンパッションはWhat(何)ではなくHow(どのように)だ」と説明。茶道にたとえて「お茶そのものがスピリチュアルなのではなく、相手への礼儀やおもてなしを持ってやるからこそ、スピリチュアルになる」と述べ、どのような心で行うかが大切だと伝えた。

 それを踏まえ、CCでは「コンパッションは地域にあるのではなく、人間にある。一人一人が参加して初めて、思いやりのある地域がつくれる」と訴えた。

 CCの事例としては、ハワイにある浄土真宗本願寺派モイリリ本願寺から始まった「プロジェクトダーナ」を紹介。お寺に通う人々の特技などをリストアップしておき、お寺が連絡事務局となって困りごとを抱える人と手伝える人をマッチングする仕組みで、そこからお寺に通う人同士の交流が生まれたり、スーパーなどお寺の外で偶然再会したりして、地域の中で顔の見える関係が生まれていく―と特長を説明した。

図・「プロジェクトダーナ」の仕組み
図・「プロジェクトダーナ」の仕組み

 さらには、グリーフケアにも言及。死別の悲嘆により、遺族1人当たり年間100万円分以上の生産性が低下することがドイツで報告されたとの研究結果を挙げ、「悲嘆を抱えたまま出勤したとしても、あまり生産性は望めない」と語った。その上で「グリーフケアの経済性と有用性を行政にアピールしていく必要がある。そのためには、調査や研究、記録などを積極的に行い、証拠を示していくことだ」と話し、現場の状況や成果を見える形で伝えていくよう訴えた。

 また、ベッカー氏は葬儀を「最後のとりで」と表現。参列者の約1割が遺族の助けになってくれるとの認識を示した上で「それがCCであり、コミュニティ再形成の最後のチャンスだ」と述べ、しっかりした形で行うことで多くの参列者を集め、コミュニティの場とするよう呼び掛けた。

【用語解説】スピリチュアルケア

 人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。

【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)

 被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は23年5月現在で212人。

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