2024年1月15日 | 2024年7月8日更新
※文化時報2023年12月8日号の掲載記事です。
金光教大阪センター(若林正信所長、大阪市中央区)は11月14日、今年度の公開講座と研究集会を開き、非営利一般社団法人「大慈学苑」(東京都江戸川区)代表の玉置妙憂さんを講師に招いた。公開講座は「いのちの声を聴くために―看護師・僧侶の経験から」と題し、オンライン併用で開催。超高齢多死社会におけるスピリチュアルケア=用語解説=について学ぶひとときとなった。(主筆 小野木康雄)
玉置さんは、がんになった夫を自宅で看取(みと)ったのを機に出家し、高野山真言宗僧侶となった。台湾でがん患者らの訪問スピリチュアルケアに取り組む尼僧たちに倣い、2019年に大慈学苑を設立。看護師として働く傍ら、ケアの実践や研修を行っている。
公開講座で玉置さんはまず、医師が治療方法を決めて十分に説明し患者の同意を得る「インフォームド・コンセント」から、患者が医師の説明を受けて治療方法を選ぶ「インフォームド・チョイス」への変化が、医療現場で見られるようになったと語った。
その上で、医療の進歩によって、さまざまな方法で命を終わらせずに済むようになった半面、「神仏に丸投げできなくなり、同じ人間が命を左右する選択をしなければならなくなった」と弊害を指摘した。また、終末期の痛みをコントロールする薬剤や機械が発達し、患者が死と冷静に向き合う時間が増えたことと合わせ、「医療は苦悩を量産している」と警鐘を鳴らした。
人生会議=用語解説=で治療方針をあらかじめ決めていたとしても、病状の進行とともに本人の思いは変わると説明。「考えておいたことを絶対にする必要はない。周囲も本人の言うことはコロコロ変わると理解すべきだ」と語った。
玉置さんはスピリチュアルケアについても詳しく解説した。
スピリチュアルペインの定義を「実存の危機」、すなわち存在が危ういと感じるときの痛みや苦しみ、不安、焦りのことだと解説した。終末期の患者だけでなく、いじめを受けている子どもや、社会に居場所がないと感じる精神疾患の人たちにもあり、「人生のどの段階でも、誰でも抱え得る」と述べた。
その上で、自分や大切な人の命の「限り」を認識したときや、災害や戦争など多数の命が奪われる不条理を実感したときに、スピリチュアルペインが表出すると指摘。答えがない問いの形を取り、聴いた人もダメージを受けることから「何とかしようとせず、真摯(しんし)な態度で聞き流すことが大切」と説いた。
一方、スピリチュアルケアに関しては、本人が書いた物語を自分自身で書き換える「手伝い」をすることだと表現した。「物語を書き換えられるのは本人だけ。何回も語ることで変わっていくから、繰り返し聴く」と明かした。
公開講座の後には研究集会が行われ、大阪センターの職員を含む金光教教師ら12人が玉置さんを囲んで懇談した。
参加者からは「ただひたすら聴かせていただく」という点で、結界取次=用語解説=とスピリチュアルケアの類似性を指摘する声が上がり、玉置さんも「通じるところがある」と応じた。
また「玉置さん自身は、自分をどのようにケアしているのか」という質問には「コンディションがいいときは、自分が筒になったような感じで何のダメージも残らないが、失敗したときは歩いたり経を読んだり、同じことを繰り返すようにしている」と答えた。
医療との連携については、臨床心理士が医療現場に入っていった経緯をひもとき、「まず医療者を安心させることが大事」と指摘。「最期に医療ができることは何一つない。宗教的なものしか救えない」と持論を述べた。
傾聴に関しては、スキルやルールを一通り試したものの、最終的には「経験値」が重要だったと振り返り、「これが完成形というものはなく、一生かけて探索していくのがスピリチュアルケアの道だ」と語った。
【用語解説】スピリチュアルケア
人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。
【用語解説】人生会議
正式名称はアドバンス・ケア・プランニング(ACP)。主に終末期医療において希望する治療を受けるために、本人と家族、医療従事者らが事前に話し合って方針を共有すること。過度な延命治療を疑問視する声から考案された。