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「おくるみ」で悲嘆ケア 地域・医療と 善西寺

2024年5月11日

※文化時報2024年4月5日号の掲載記事です。

 三重県桑名市の浄土真宗本願寺派善西寺(矢田俊量住職)が、死産などによるグリーフ(悲嘆)ケアに「おくるみ」を利用する取り組みを、地域の医療関係者らと共に進めている。納棺の際に赤ちゃんの体を包んで送り出すおくるみは、親たちにとってかけがえのない衣服。活動開始から1年がたち、徐々に理解が広がっている。(松井里歩)

 矢田住職は、妊娠・出産や不妊に関する情報提供を行う「不妊カウンセラー」や看護師らと共に、出産前後の周産期に子どもを亡くした親たちによる分かち合いの会「グリサポくわな」を2018(平成30)年に立ち上げた。グリサポはグリーフサポートの略で、「グリーフは、ケアというより支えるもの」と考えたことが名前の由来だ。

 グリサポくわなは活動の一環として、メンバーたちが手縫いしたおくるみを提携医療機関に無償提供。わが子を亡くしたばかりの家族は、医療スタッフと一緒になって好きな柄を選ぶ。家族と同時に、医療スタッフのグリーフも和らげられるという。

 おくるみの提供から1年となったのを機に、3月3日には善西寺で「周産期グリーフケア研修会」を実施。地域の医療関係者らが、おくるみによるケアの有効性と重要性を再確認するとともに、当事者やお寺と連携するコミュニティーの意義についても考えた。

当事者と支援者結ぶ

 研修会は本堂で行われ、おくるみづくりのリーダーを務める大瀨康子さんが、自身のグリーフについて講演した。

(画像:本堂で行われた研修会。医療関係者が集った=3月3日、三重県桑名市)
本堂で行われた研修会。医療関係者が集った=3月3日、三重県桑名市

 不妊治療の末に授かった子どもが妊娠30週の頃、子宮内で亡くなった。ぼうぜんとした状態が続いて記憶はあまりないが、医師の声掛けやずっとそばにいてくれた看護師の存在、親子3人で川の字になって寝かせてもらえたことなどが、グリーフを和らげたと感じているという。

 一方、矢田住職は遺族による自助グループでのグリーフケアを重要視していると話した。退院後は子どもを亡くした経験を語れる場がなく、友人関係や職場に戻りづらいなどの悩みを抱えやすいことから、地域での心のサポートが必要だと伝えた。

 また、提携先の一つである海南病院(愛知県弥富市)の産婦人科に勤める女性が事例を報告し「わが子のサイズにぴったりになるよう裁縫で手直しするママもいて、『子どもに何かしてあげられた』という体験をつくることにもつながった」と語った。

 研修会の後には、おくるみの実物を見たり参加者同士でコーヒーを飲みながら語り合ったりと、当事者と支援者が交流する様子が見られた。

(画像:亡くなった赤ちゃんを包む「おくるみ」)
亡くなった赤ちゃんを包む「おくるみ」

お寺の外で拠点づくり

 この日、当事者と支援者の交流の場となったのは、道路を挟んで本堂の向かいにあるコミュニティースペース「MONZEN」。2階建ての空き家を利用した建物で、普段からおくるみを縫ったり遺族同士で語り合ったりする場として活用している。

 以前は主にお寺の門徒会館を使って活動していたが「お寺が入りにくい場所と言われるなら、お寺の方が出ていけばいい」と考え、約4年前から整備を始めた。

 MONZENの入り口にはのれんがかけられており、ロゴマークの下にこんな言葉が書かれている。

 「For Compassionate Communities」

 「コンパッション・コミュニティ」は、慈悲や思いやりなどと訳される「コンパッション」が根差した地域社会のこと。老病死や喪失を市民同士が支え合う新しい考え方で、医療・福祉関係者から注目を集めている。善西寺のように、地域でグリーフケアをすることも、大きな役割の一つとして考えられている。

(画像アイキャッチ兼用:MONZENの前で合掌する矢田住職。「コンパッション・コミュニティ」の実現に力を注ぐ)
MONZENの前で合掌する矢田住職。「コンパッション・コミュニティ」の実現に力を注ぐ

 実は矢田住職も、33年前に1人目の娘を妊娠40週目で亡くした当事者の一人。20年以上前からグリーフケアに携わり、病院などで多くの現場を経験してきた。在宅医療や訪問看護が発展し「これからは病棟ではなく、街中がグリーフケアの場だ」と考えるようになり、「コンパッション・コミュニティ」づくりを自坊で実践するようになったという。

 地域での看取(みと)りには、お寺だからこそできることがある。

 門徒にどんな付き合いがあり、どんな暮らしをしているのかという住職ならではの情報は、医療者にとっても有益だ。門徒の終末期に関われるような同行受診ができなくても、地域で在宅診療を行う医師に情報提供できるような関係性が、それぞれのお寺でつくれればと願う。

 「見た目はにぎやかだけど、苦しみに出会う場」。矢田住職はMONZENをそう表現する。お寺の宗教性を生かしながら、医療や地域との連携を通してどんな「コンパッション・コミュニティ」ができるのか。今後の発展が期待される。

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