2024年5月19日
※文化時報2024年4月5日号の掲載記事です。
浄土真宗と医療が相互の見地から生死の苦悩に寄り添うことを目指す「西本願寺医師の会」は3月24日、浄土真宗本願寺派本山本願寺(京都市下京区)の聞法会館で第8回の総会を開いた。医師ら約30人が参加し、医療と仏教が連携する制度の創設を訴えることや、医師の会として僧侶養成を支援していくことなどが話し合われた。(大橋学修)
布教使の若林唯人氏(光照寺衆徒、大阪教区)が「浄土真宗による『死』の受容」と題して法話。苦しさのあまり「もう殺してくれ」と訴えて亡くなった祖父の死について語り、「必ずしも臨終時に迎えに来てもらう必要はない。常に阿弥陀様は念仏申す衆生であるよう人々を育て、どのような命の終わり方でも救い取っていただける」と話した。
続いて看護師の福永憲子・岡山商科大学法学部所属研究員が「宗教的ケア再考―死の現在、市民社会と医療のpoliticsの視点から」と題して基調講演を行った。
宗教者が常駐する緩和ケア病棟、あそかビハーラ病院(京都府城陽市)で従事する看護師への調査結果を基に、宗教者が医療に携わる有効性を示した。
その上で「宗教者の常駐が難しいのは、診療報酬で位置付けられていないから。そのためには、医療における宗教者の専門職性が示されるべきだ」と話した。
また「西本願寺医師の会を構成する医師は212人と、学会の規模に相当する。医療と宗教の研究会に昇華し、学術分野への診療報酬制度の助言などに取り組んでほしい」と提案した。
続くディスカッションには、パネリストとして森田敬史・龍谷大学大学院教授が、ファシリテーターとして大阪府枚方市立ひらかた病院の森田眞照顧問が登壇した。
森田教授は「エビデンス(根拠)で構築される医療の世界に宗教を持ち込むことの難しさがあるが、医療も宗教も社会的権威が付与されており、それが安心材料たり得る。宗教者は死の専門家として『安心していいですよ』と導くことができる」と語った。
森田顧問は臨床宗教師=用語解説=を市立ひらかた病院に置く際、病院内で「公立病院に宗教者を置くのはどうか」と難色を示されたと明かした。
臨床宗教師の資格制度を説明したことで理解され、週1回、長期入院患者との会話や若いスタッフのケアに当たってもらうようになったものの、「常駐に導くには、効果を示すデータが必要だ」と述べた。
会場からは「志のある僧侶を育てる宗派の活動を、西本願寺医師の会が後押ししてはどうか」「診療報酬への位置付けは時間がかかる。実践としては、入れる病院から入って実績を積むべきだ」などの声があった。
弘中貴之総務はあいさつで「医療者からの期待に比べて、僧侶の関心が低い。多くの視点と課題を頂いた」と指摘した。
【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は23年5月現在で212人。