2024年6月8日
※文化時報2024年4月19日号の掲載記事です。
医師の長時間労働を是正する働き方改革が、4月から始まった。宗教者にとっては、協働相手である医師がどのような制度や風土を土台にして働いているのかを知れば、連携する際に役立つ。また、働き方改革そのものが宗教界に与えている影響を、改めて認識する機会にもなるだろう。
医師の働き方改革は、勤務医の時間外労働(休日労働を含む)について、原則年960時間を上限としている。違反すれば使用者が罰せられる。地域医療などへの影響が考慮され、大企業から5年、中小企業から4年遅れて導入され、しかも緩い上限規制となった。
長時間労働は「karoshi」として不名誉な国際語になった過労死問題の元凶である。大手広告代理店の新入社員が過労自殺した事件などを背景に、政府は2017(平成29)年3月にまとめた「働き方改革実行計画」で、労働基準法に時間外労働の上限を明記する方針を打ち出した。
18年6月に成立した改正労基法は、時間外労働を原則月45時間、年360時間までと定めた上で、休日労働を除く上限を年720時間とした。
ただし医師については、その後の厚生労働省検討会などでの議論の結果、年960時間となり、さらに救急医療やへき地医療を担う場合は、年1860時間とする特例措置も設けられた。
年960時間は月80時間に相当しており、心身の健康に影響するリスクが高まるとされる「過労死ライン」と同じ数字である。医者の不養生とは、まさにこのことだろう。
なぜこのような緩い上限規制となったのか。
要因の一つが「応召義務」だ。医師法19条では、診療に従事する医師は、正当な事由がなければ患者からの診療の求めを拒んではならないとされている。罰則はないものの、「正当な事由」を巡る解釈の余地が残るなど、足かせとなっている面が否めない。
医師以外の医療職は、すでに一般労働者と同様の働き方改革が適用されている。緩和ケア病棟や在宅医療などの現場で協働する際には、留意する必要がある。
働き方改革は、宗教者も例外ではない。
宗教法人でも一般企業と同様、職員や役僧を雇用すれば、労基法の適用を受ける。修行や奉仕といった信仰と区別しづらい部分があっても、信仰を隠れみのにした労働は強制できない。教団や寺院住職は使用者、職員や役僧は労働者であり、守られるべきなのは立場の弱い職員や役僧である。
一般寺院は、深夜に訃報を受けて対応することがある。檀家・門徒や信徒から急を要する相談を受けたり、場合によっては現場に駆け付けたりすることもあるかもしれない。こうした仕事を役僧に任せているのなら、労働時間としてカウントされる可能性を念頭に置いた方がいい。
宗教法人は税制上の優遇を受けている以上、法令順守に関して社会からより厳しい視線が注がれる。医師も宗教者も特別扱いされがちだが、宗教者には医師と違って時間外労働の特例措置はない。慎重な対応が求められるといえよう。