2024年7月4日
※文化時報2024年5月21日号の掲載記事です。
障害のある子やひきこもりの子の親たちが自分たちの「親なきあと」について語り合えるようにと、愛知県岡崎市の真宗大谷派本光寺(稲前恵文住職)が開く「親あるあいだの語らいカフェ」が今月、開催1年を迎えた。2カ月に1度、さまざまな話題について話したり聞いたりする場で、支援者や行政関係者らも参加。門徒たちの関心も高まりつつある。(主筆 小野木康雄)
「この場に来ると、子どもと過ごした時間の振り返りができる」。障害のある子の父親がそう言うと、ほかの参加者たちがうなずいた。10日午後、本光寺の門徒会館で開かれた語らいカフェでの一幕だ。
この日は通算7回目で、運営側を含めて17人が参加。本堂で手を合わせてから集まり、簡単な自己紹介をした後、稲前住職の進行でざっくばらんに語り合った。当事者家族の他には、岡崎市役所や地域包括支援センター=用語解説=の職員の姿もあった。
話題は参加者がそのとき話したいことを中心に、会話の中から自然と定まっていく。この日は障害者就労・雇用が主なテーマとなり、「職場の理解と、特徴や個性に応じた役割が必要」「『コミュニケーションを取ることが大事』という思い込みを捨ててほしい」といった声が上がった。
愛知中小企業家同友会で会員企業に障害者雇用を呼び掛けている自動車整備工場経営の田中伸明さん(愛知県小牧市)は、今回が初参加。「親御さんの話を直接聞くことで、想像以上にさまざまな苦悩があることを理解した」と語った。
岡崎市ふくし相談課の内藤康敬係長は「ご家族がこれほどたくさんお話しになるとは思ってもいなかった。お寺ならではの雰囲気があるのだろう。会議室ではこうはならない」と感想を話した。
稲前住職は2021年に「文化時報 福祉仏教入門講座」を受講。22年12月、文化時報社が運営母体となっている一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室の相談室支部を開設した。元々、福祉分野に関心はあり、「自分に何ができるのか」としばらく躊躇(ちゅうちょ)していたが「お寺を『場』として開く活動だ」と考え、開設に踏み切った。
寺族と門徒総代に根回しした上で、行政・医療関係者や地元のマスコミなどにも声をかけ、理解と協力を得た。23年4月に開設記念講演会、翌5月に第1回の語らいカフェを開いてから、コンスタントに活動を続けている。
語らいカフェを始めて大きく変化したのが、門徒たちの「空気」だった。寺報で活動内容を報告しているうち「障害に理解のある住職」というイメージを持たれるようになった。お参り先では、それまで遠慮がちに隅の方にいた障害のある人が、他の人と一緒にお勤めをするようになった。
今年4月、境内にお寺直営の樹木葬墓園「こもれび庭苑」を開所したところ、親なきあとに関心のある当事者家族からの申し込みが複数あったという。
稲前住職は「いろいろな話を聞かせていただき、私が学ぶことばかり。悩みや思いを互いに聞き、語り合うことで、人と人がつながることの大切さを感じている。一人でも多くの人に親なきあとへの関心を持ってほしい」と話している。
本光寺での次回の「親あるあいだの語らいカフェ」は7月11日午後1~3時に開催。参加費300円。門徒会館のロビーでは看護師のボランティア団体「One Nurse」(ワンナース、時任春江代表)が「ふぁみりーあったか保健室」を開催し、ストレス測定や健康相談を行う。問い合わせは本光寺(0564―43―2216)。
【用語解説】地域包括支援センター
介護や医療、保健、福祉などの側面から高齢者を支える「総合相談窓口」。保健師や社会福祉士、ケアマネジャーなどの専門職員が、介護や介護予防、保健福祉の各サービス、日常生活支援の相談に連携して応じる。設置主体は各市町村だが、大半は社会福祉法人や医療法人、民間企業などに委託し運営されている。