2024年10月14日
※文化時報2024年8月20日号の掲載記事です。
境内の隣で守山幼稚園を運営する浄土宗浄土院(児玉尚文住職、名古屋市守山区)は、敷地を全面活用することで、子どもたちが自由に成長できる場づくりに励んでいる。不登校の子を受け入れるフリースクール「てらこやさん」のほか、7月には障害のある子や〝グレーゾーン〟の子らの療育などに力を入れる施設「あったか」を新設した。守山幼稚園の園長で副住職の児玉匡信さんは「家に帰って『今日も楽しかった』と言ってくれればそれで100点」と考え、子どもがのびのびと過ごせるような場をつくり続ける。(松井里歩)
守山幼稚園は守山区内で最も古くからある幼稚園で、1946(昭和21)年に守山保育園として開所した。仏教的情操教育を踏まえ、「明るく、正しく、仲良く」を教育理念に運営しており、現在は園児約170人が在籍する。
園長で副住職の児玉さんは近年不登校になる子どもたちが増加していることを知り、安心して過ごせるフリースクール「てらこやさん」の運営を昨年12月に始めた。平日の5日間開校し、現在は小中学生8人と高校生1人が通っている。
普段はほとんど使用していない書院の客間を中心に、講堂や園内で遊ぶことが多いが、時には市民プールに出かけたり、園庭でキャンプをしたりと、児童らの希望に沿って外で活動することもあるという。
てらこやさんに決まったスケジュールはほとんどなく、子どもらは日々思い思いに過ごす。7月3日には、園庭で行われる夏祭りの出店準備をしたり空き缶を高く積み上げて遊んだりと、好きなことをしながら仲良く過ごす様子が見られた。
小学6年の西川詩乃さん(11)は4年生のころから学校に行かなくなり、今年2月から、同じく不登校がちだった弟と「てらこやさん」に通うようになった。以前は家でじっとしていることが多かったが、友人や園児と遊ぶことで体を動かすようになったと感じているそうだ。
児玉さんによると、子どもたちは登校時によくあいさつをし合うといい、「本来の人の姿のように思える。あえてこちらが決め付けないことで、その子らしさや生き方が根付いていくのでは」と話す。
地域における寺院の役割を考え続ける児玉さんの取り組みは、これだけではない。
7月1日には、0~6歳の未就学児が通える児童発達支援事業所「あったか」を開設した。守山幼稚園、園内の小規模保育室、「てらこやさん」に次ぐ新たな施設で、一人一人に合った支援や療育を行う。境内に隣接した空き家を改装し、プレイルームやバリアフリートイレを設置することで、幼児が過ごしやすい空間になっている。
発達状況によって個別支援を求めて幼稚園から移ってくる子どもや、1時間だけ過ごす子もおり、7月1日時点では契約者と手続き中を含めて8人の入所希望者がいたという。
統括主任を務める小川文菜さんによると、施設には保育士のほか、子どもの個別支援計画書を作成する管理責任者に加え、医療的ケア児=用語解説=の受け入れも検討していることから、看護師も常駐。「支援をしながら、特別なニーズのある子どもを受け入れる環境をどのように整えていくか模索している」と話していた。
さまざまなニーズのある子どもたちに寄り添った施設運営をする浄土宗浄土院の守山幼稚園。「守山ならうちの子も入れるのではないか」と思い入園や入所を希望する保護者もいるほど、自由で手厚い雰囲気が保護者の支えになっている。
フリースクール「てらこやさん」は開所から8カ月、児童発達支援事業所「あったか」は1カ月を迎えた。寺報や会員制交流サイト(SNS)での発信も活発で、檀家からも応援の声をもらっているという。
てらこやさん職員の深見太一さんは、園長で副住職の児玉さんの息子が小学生のころの担任教師だったことから、スタッフとして働かないかと声を掛けられた。子どもたちの面倒を見ながら「お寺×不登校の取り組みが広がると、日本のポテンシャルも上がってくるのでは」と語った。
児玉さんは今後の活動について「このまま長く続けていきたい」と話し、子どもたちがのびのびと自分らしく過ごせる環境の維持に力を入れていく。
【用語解説】医療的ケア児
人工呼吸器や胃ろうなどを使用し、痰(たん)の吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童。厚生労働省によると、2021年度時点で全国に約2万180人いると推計されている。社会全体で生活を支えることを目的に、国や自治体に支援の責務があると明記した医療的ケア児支援法が21年6月に成立、9月に施行された。