2024年10月26日
※文化時報2024年8月30日号の掲載記事です。
介護が必要なお年寄りと夏休み中の小学生が、経験したことのないフラダンスに一緒に挑戦する。そうして絆を育んでもらおうという試みが、千葉県九十九里町で行われた。福祉施設を営む地元のNPO法人「わ」と町役場が仕掛け、浄土真宗本願寺派の僧侶が運営をサポート。企画を立案した「わ」の副理事長で看護師の潮礼香さんは「いろいろな人がいて、困ったら声をかけ合う。そんな『ごちゃまぜ』な共生社会ができれば」と語る。(山根陽一)
太平洋に面した海岸に近い町立片貝小学校の体育館に1日、学童保育の児童約30人と介護施設を利用する約20人が集まった。「みんな一緒にフラダンス」と題した行事に参加するためだ。
講師役は、同県船橋市などで伝統的な踊りを指導するフラダンス教室「ハラウオケアラロゼラニ」のメンバー。全国大会の出場経験もある有力チームで、子どもから大人まで幅広い年齢層のダンサーを擁する。この日は20人以上が来校し、代表の宮川恵子さんは「フラダンスはハワイの原住民に伝わる伝統芸能。老若男女が楽しめる」と魅力を語った。
「わ」の施設を利用する松山洋子さん(92)と佐藤美子さん(86)は「難しくて踊れないけれど、見ているだけで楽しくなる」と笑顔。最高齢の柳川みつさん(97)も「ただただ子どもがかわいかった」と顔をほころばせた。
グループホームなどを運営する桜ケアセンター(千葉県東金市)の利用者たちも参加。椅子から立ち上がれない高齢者も多かったが、首にレイをかけて手や顔を動かし、楽しそうな表情を見せた。
同センター取締役の柿下友宏さんは「ほとんどの高齢者にとってフラダンス体験は初。とてもいい刺激になった」と話し、「会社を超えて介護施設が地域で連携することに意義がある。今後もこうした取り組みに参加したい」と語った。
一方、夏休みに入って時間を持て余す学童保育の小学生たちは、初めて体験する踊りに目を輝かせた。リズム感の優れた子も多く、興味を持って一生懸命に体を動かした。学童保育を支えるシダックス大新東ヒューマンサービス(山田智治社長、東京都渋谷区)の社員たちも参加していた。
全国学童保育連絡協議会の調査では2023年現在、約140万4千人が学童保育を利用している。九十九里町でも利用する家庭は少なくないという。
同町社会福祉課子育て支援係の三橋綾子さんは「ゲームや宿題に明け暮れる子どもにとって、フラダンスは未知との遭遇。高齢者らと一緒に楽しむことも有意義だった。福祉や介護を知る機会にもなったのでは」と振り返った。
浄土真宗本願寺派清心寺(茨城県ひたちなか市)の増田廣樹住職も運営を手伝い、フラダンスの後には全員の前で法話を行った。「人は人の間を生きるから人間という。千ピースのジグソーパズルも1片がなければ完成しない。全ての人に役割があり、つながっている」と語りかけた。
増田住職は、本願寺派茨城東組(とうそ)の若手僧侶たちと「寺院と介護・福祉の連携」をテーマに活動している。「行政も企業も同じ思いでつながれば大きな力になる。こうした縁を大切に、幅広い世代が参加できる動きを地元でも実現したい」と語った。
僧侶と連携した地域包括ケアシステム=用語解説=の構築を目指す潮さんは「何かを切り開いているという感覚はない。本来備わっているはずの人間の力をつないでいるだけ。つなげることで、あるがままに『ごちゃまぜ』で共生できる社会が生まれてくるはず」と強調した。
潮礼香さん
【用語解説】地域包括ケアシステム
誰もが住み慣れた地域で自分らしく最期まで暮らせる社会を目指し、厚生労働省が提唱している仕組み。医療機関と介護施設、自治会などが連携し、予防や生活支援を含めて一体的に高齢者を支える。団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに実現を図っている。