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インタビュー

橋渡しインタビュー

「普通」に生きたい25歳の葛藤 えりかんさん

2026年4月13日

 軽度の知的障害のある、えりかんさん(25)=埼玉県在住=は、自身の障害を動画投稿サイト「ユーチューブ」で発信している。知能指数(IQ)は70前後。目安だと、会話はできるが、臨機応変な対応や複数の作業を同時にこなすのは苦手とされる。高校卒業後に転職を9回繰り返し、現在は障害者雇用のカフェで勤務。「スキルアップしたい」と語る裏には、見えない葛藤を抱えていた。(飯塚まりな)

 「こんにちは、えりかんです」。毎回、動画は笑顔の挨拶から始まる。8年前に開始し、登録者は1万6千人を超え、投稿動画は600本以上にのぼる。

 動画に映る、えりかんさんの話し方はとても滑らかだ。言葉に合わせて、字幕がタイミングよく流れ、わかりやすい構成になっている。年齢に合った服装と髪型にメイクは、一見どこにでもいる20代の女性だ。

(画像1スクエア:軽度知的障害について発信するえりかんさん)
軽度知的障害について発信するえりかんさん

 2001(平成13)年生まれ。三姉妹の次女。長女と比べて言葉の発達が遅いことに母親が気付き、4歳で軽度知的障害と診断された。

 小学校ではいくら真面目に聞いても、授業の内容が頭に入らず、同級生たちが理解している様子を見て不思議に思っていた。テストでは赤点が続き、いじめの対象になった。

 「私からすると、何をするにしても周りの子たちのレベルが高い。中学からは、いじめのターゲットにならないようにおとなしく過ごしました」

(画像2アイキャッチ兼用手袋:動画制作が精神的な支えに)
動画制作が精神的な支えに

 中学3年の時に動画の配信を始め、高校2年で現在のチャンネル「えりかん」を作った。動画制作は性に合っていたという。

 「ハンデ系」と呼ばれるジャンルで、自身の障害特性や仕事、旅先の様子、恋愛観などを語り、定期的に配信を続けている。

 同じ境遇や悩みを抱える人のコメントが次々に届き、近年は当事者同士のコラボ動画を撮影。交流することで、新しい一面を見せている。

もう少し自分にもできることがある

 えりかんさんは高校卒業から9回職場を変えた。就労継続支援B型事業所=用語解説=や特例子会社で支援制度を利用。リゾートアルバイトや倉庫作業など、一般就労に挑むこともあったが、極度の緊張感や人間関係のストレスで、どれも長く続けられなかった。

 現在は障害者雇用のカフェに入職し、1年がたったという。「よかったですね」と伝えると、一瞬表情を曇らせた。

(画像3後ろ姿:思うようにいかない日々と向き合う)
思うようにいかない日々と向き合う

 仕事は接客ではなく、仕込みや皿洗いの裏方だ。ミスが起きてもさほど問題にならない業務を任されている。「配慮をしてもらえることはありがたい」と感じている一方で、悩みがあった。

 「いつまでも仕事が皿洗いばかりでは、スキルアップできません。障害はあっても、少しずつできることを増やしたいです」と、率直に思いを語る。

 上司には、コーヒーの抽出や、ドリンクの作り方などを覚える機会を与えてほしいと相談したが、「今の仕事が完璧にできるようになったら考える」と返答された。本人曰(いわ)く、ミスはほとんどないと話すが、再度相談するまでに至っていない。

 モチベーションが下がり、働く日数を減らしてしまった。本来は、ここで踏みとどまる姿を見せなければ、その機会が巡ってくることは難しい。だが、続けることよりも次の職場を探すことを考えてしまう―。

 障害者雇用であるからこそ、職場にも本人にも、もう一歩踏み込んで向き合う姿勢が必要なのかもしれない。

 同世代の友人たちは結婚し、正社員で働き、安定した収入を得ている。両親からも「早く自立してほしい」と言われ、焦る気持ちが募っている。

 数年前、動画で「結婚はできないと思う」と語っていたが、周りの変化に気持ちが揺らぎ、将来は結婚して家庭を築くことに憧れを抱くようになった。

障害者バーの当事者たちと語らい

 2年前から、えりかんさんは東京・池袋の「エデン要町」で不定期の「発達障害バー」を開催している。店主と共通の知人を通して知り合ったことがきっかけだった。

 「40人ほどのお客さんが来店します。毎回、いろんな人と話ができるのが楽しいし、困っているのは私だけではないのだと実感できる」と笑顔を見せた。

 訪れる客の7割は動画のフォロワー。客同士の会話が刺激的だという。

 中には知的障害の子どもを育てる母親が、卒業後の進路について知りたいと店に来たことがあった。自身の経験が少しでも役に立てるのならと、対応した。

(画像4青空:最近は「発達障害バー」をきっかけに、接客業に興味を持つ)
最近は「発達障害バー」をきっかけに、接客業に興味を持つ

 「でも、当事者同士だけで完結してはいけないと思います。共感できることが多くて気は楽ですが、それだけの世界に留まることは避けたいです」

 えりかんさんは、障害を「個性」や「多様性」という枠に押し込めることに、違和感を覚えている。「普通」と呼ばれる生き方を模索している。

 運転免許を取得したいと自動車教習所に通ったが、学科教習の内容理解をチェックする効果測定で30回ほど落ちた。それでも諦めず努力を重ね、現在は自動車だけでなく、小型二輪の免許も取得した。

 たとえ困難な状況にあっても、少しずつ前進している。自分の可能性を信じて生きる姿が、フォロワーの力になっている。

【用語解説】就労継続支援B型事業所

 一般企業で働くことが難しい障害者が、軽作業などを通じた就労の機会や訓練を受けられる福祉事業所。障害者総合支援法に基づいている。工賃が支払われるが、雇用契約を結ばないため、最低賃金は適用されない。

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