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〈10〉「徳分位牌」普及に尽力 仏壇文化研究所

2024年11月10日

※文化時報2024年6月11日号の掲載記事です。

 仏壇文化研究所(BBI)は、位牌分けを「徳分位牌(とくわけいはい)」と名付け、2023年7月から周知活動を展開している。仏壇大手の株式会社はせがわ(東京都文京区)もこの活動に取り組んでおり、販売数量は位牌が前年度比2%増、手元供養は同19%増となったという。

 BBIは、仏壇を通じて日本人の精神世界の研究や伝統文化の啓蒙に努める任意団体。仏壇メーカー・卸売業を中心とした12社が参加している。

 「徳分位牌」の周知活動を始めた狙いと背景は、同会の設立メンバーの一人である株式会社はせがわの新貝三四郎社長によると、こうだ。

(画像1:「徳分位牌」を周知するポスター)
「徳分位牌」を周知するポスター

 同会は3カ月に1回、会合を持っている。その席上、位牌の話になり、新貝社長は「昔は位牌分けを行っていたのに、最近はあまり行っていないのはなぜだろう」と疑問に感じた。意見交換するうち、仏壇業界は目先の販売や売り上げだけに目が向き、位牌分けの意義や役割を一般の生活者に伝える努力を怠ってきたためだろう、との意見で一致した。

 周知する上でネックになったのが、位牌分けというネーミング。現代人の感覚からすると受け入れられない人が多いのではないか、との意見が出て、各自が言い換えの案を持ち寄ることにした。

 次の会合の席上、森正株式会社(徳島県北島町)の森正相談役が、高野山真言宗の瑠璃山妙法寺(徳島県那賀町)の白川剛久上人に相談したところ、「徳分位牌」はどうだろうと提案されたと報告があった。「徳分」とは、親が子に対して抱く「人として正しく育ってほしい」という思いを「徳」と理解し、その徳を両親の没後も分かち合うという意味だという。

 親の徳を分けた位牌の前で手を合わせれば、自分の生き方を反省し、道徳観ができ上がる―。そう考え、メンバー一同が賛同した。

 23年7月に「徳分位牌」の周知を図るポスターを1万枚製作。メンバーの仏壇メーカー・卸売業の営業担当を通じて全国の仏壇店や寺院などに配布し、店頭などに掲示してもらうようにした。

(画像2アイキャッチ兼用:ポスターが飾られた仏壇店の店内)
ポスターが飾られた仏壇店の店内

 株式会社はせがわでも、「徳分位牌」を顧客に勧めることにした。折しも23年4月の店長会議で、新貝社長は「仏壇・位牌を販売するだけでなく、一人でも多くの日本人に手を合わせる習慣を持ってもらうことが、われわれの使命である」と訴えていた。

 ただ、位牌は宗教的な意味合いが強いことから、ハードルが高い人もいるだろうと考え、手元供養品も含めて周知・提案を行うことにした。

 全国130近くの店舗に呼び掛け、1年間で約1800の成功事例が集まった。その中から特に参考になるものをピックアップして各店にフィードバックし、さらに周知・提案に努めた。

 その結果、24年3月までの1年間の販売数は、前年に比べて仏壇が5%減だったのに対し、位牌は2%増、手元供養は19%増となった。同社は「徳分位牌」の周知・提案活動が貢献した結果だとみている。

(画像3位牌手に説明:顧客には「徳分位牌」を通じ、手を合わせる習慣の大切さを訴えた)
顧客には「徳分位牌」を通じ、手を合わせる習慣の大切さを訴えた

 BBIとして「徳分位牌」の周知活動を始めてから1年となるのに合わせ、新貝社長は改めてメンバーと話し合いたいと考えている。

 新貝社長個人としては、「徳分位牌」の周知活動の当面の目標は、「礼儀のための場を整え、自身の心の中心軸をつくっていくことの大切さを伝えていくことにある」と語る。

 「最終目標は、位牌や仏壇の前だけでなく、折に触れて『ありがとう』『いただきます』と手を合わせる敬い、感謝、礼儀の文化やその心の豊かさ、つまり日本古来の精神世界観を取り戻し、次世代に継承していくことだ」と新貝社長。BBIで次の活動を行うよう提案するという。

(画像4:仏壇文化研究所のメンバーたち)
仏壇文化研究所のメンバーたち

塚本の目

供養の価値 誰が伝えるか

 筆者がBBIの今回の動きに注目したのは、「徳分位牌」の意義もさることながら、供養を世に広め、次世代に継承していくには、周知・啓蒙活動は必要不可欠と考えるからだ。

 社会構造の変化に伴い、人々の人生観、供養観なども変わってゆく。供養観が簡単に変わらないためには、その人にとって大事な価値観となっていなければならない。そのためには、供養にどのような価値があるのかを知らなければならず、自分で勉強しない人には教えるしかない。

 地域社会との縁が薄くなり、供養の意義や役割の伝え手が少なくなった現代では、供養を執り行う人やサービス・商品として提供する業者が伝えなければならないだろう。

 そうした意味で、BBIの取り組みは好例だと思う。

(画像5今回の取材相手※キャプションなし)

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