2024年12月3日
※文化時報2024年10月1日号の掲載記事です。
9月13~15日に天理大学(奈良県天理市)で行われた日本宗教学会第83回学術大会では11の部会が設けられ、午後にはパネル発表が行われた。14日には「何が『ケアする人』を支えるのか?」をテーマに、山本佳世子天理大学准教授、森川和珠椙山女学園大学講師、尾角光美一般社団法人リヴオン代表理事、稲場圭信大阪大学大学院教授が発表。スピリチュアルケア=用語解説=を中心に、ケアする人のケアについて意見交換した。4人の発言要旨は次の通り。(松井里歩)
自身整える一斉面談
山本 佳世子 氏(天理大学准教授)
堺市立総合医療センターで臨床スピリチュアルケア・ボランティアとして活動していて、患者の病床訪問と看護師のケアを15年ほど続けている。
看護師は、患者の死などの悲嘆(グリーフ)を抱えつつ、自分でどうにかするしかないと感情を管理してしまう。ボランティアの限界があり、看護師の面談希望者は少ないが、ハイストレスな状況にあることが予想される看護師への「一斉面談」が有効だと考える。
センターでの一斉面談は毎年5~6月、新人看護師全員に行っている。仕事や人間関係の苦悩や感情を見つめたり、看護師になった動機や自身の支えを確認したりする。一斉に行うことで、「あなたたちを気遣っていますよ」というメッセージになり、「ただ聴いてもらう」という経験もできる。
私はスピリチュアルケアを「人生の深淵(しんえん)をのぞき見る過程を共にすること」と定義している。これは必ずしも「スピリチュアルペインに対するケア」ではない。スピリチュアルケアは、感情に向き合い、見つめ直す場として、自身のありようを再確認・再発見し、自分自身を整えていく手立てになると考えている。
自他の痛みを知る
森川 和珠 氏(椙山女学園大学講師)
スピリチュアルケアは「する」よりは「いる」「きく」のケア。ただし、対等で双方向な関係性であることを前提としつつ、また「何もできない」と言いながらも、そこに「いる」ことによる相手への侵襲性や「矢印」を持った存在であることは自覚した方がいいので、「ケアする人」と呼んでいる。
私はスピリチュアルペインを「生きることの本質と向き合う苦しみ」、スピリチュアリティーを「意味と関係性に支えられた『人を生かすつながり』」と定義している。実存的な深みを持ったケアへの取り組みが「ケアする人」にもたらす負荷を「二次的ペイン」と呼んでおり、痛みを知ることで支援者の成長過程が進んでいくと考えている。
以前、支援者5人にインタビューした際、スピリチュアリティーについて「何かこんな感じ」というぼんやりとした言葉でしか語られなかった。
支援者はまずスピリチュアルケアと出会い、自他のスピリチュアルペインを知る。そしてケアされることでケアすることを学び、スピリチュアリティーに気付くことが支援者自身の支えになる。
「ままに」セルフケア
尾角 光美 氏(一般社団法人リヴオン代表理事)
他者を支える土台には、セルフケアが有効だと考える。例えば、持続的な職場のストレスにうまく対処できない時に生じるバーンアウト(燃え尽き症候群)は、職場をかえたり、仕事を休んだりして対処される。また、外傷的な体験をした人を見たり話を聞いたりして感情移入しすぎてしまう「共感疲労」には、境界線を引くことが重要なスキルとなる。
自他を大切にする境界線の手掛かりには、衣服やアロマなど五感に影響するものを身に着けることや、透明なベールや光で守られているイメージ、時間の枠を決めることなどが有用ではないかと考えている。
セルフケアの要点は、自分自身を知ることと、仲間同士のサポートにある。何がどのようにしんどいのかに気付き、自分の限界を知る。そして、一人で抱え込まず、共有できる仲間を持つ。
その際のキーワードは「ままに」。仲間からも自分自身の「まま」を認めてもらえる関係性を築くとともに、自身に対しても良い悪いの判断をせず「ままに」見るまなざしを持つことを勧めたい。セルフケアの質が、他者との間に生まれるケアにつながると感じている。
被災宗教者にも必要
稲場 圭信 氏(大阪大学大学院教授)
これまでさまざまな被災地に足を運び宗教者の支援を目にしてきた。心のケアは利他の実践だが、心だけを切り取ったケアは成り立たない。「丸ごとのケア」をする宗教者が信頼を寄せられ、「また来てくれた」という実感が心のケアになっていく。
「生かされた命」という言葉が被災地で繰り返し言われ、宗教者も使うことがある。これが、家族を亡くした方を「どうして自分の大切な家族は生かされなかったのか」と苦しめる。また、助けを求める力である「受援力」もよく言われる。コミュニティーの核となる寺社や宗教者は、受援力を発揮する立場として過剰な期待を受けることもある。
自ら望んで支援に向かう宗教者も、期待されればされるほど自分の逃げ場所がなくなる。同じ宗派の人が支える必要があるのではないか。
外部から来た支援者には戻る場所があり、気持ちの切り替えもできる。しかし、自分の家や本堂、社殿が倒壊した宗教者は、逃げ場がない。被災した宗教者は感情を表に出さないが、外から入る宗教者が自覚的にケアする必要があるだろう。
【用語解説】スピリチュアルケア
人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。